第196話 動き出す政局
知事辞任からもうすぐ半年。
そして、王都に戻り忙しい日々を送る。
私たちは秘密裏に法案を準備した。これが漏れるようでは、準備段階で保守派に潰される。だからこそ、根回しが大事よ。すべてが成立する目途が立てば、公表する。そうじゃなければ、王子に本気で潰される可能性が高い。
「大臣。こちらが修正案です」
「ありがとう次官。素晴らしい出来ね」
「そう言ってもらえて嬉しいですが……しかし、これはかなりリスクが高い法案だと思いますよ。本当にやる気ですか?」
「ええ、今回の法案成立に私は職をかけるつもりです」
「大臣。あなたは就任半年で次々と教育制度の改革を成し遂げた。初等教育なら、貴族だけでなく庶民も受けることができる体制が整いつつある」
「ええ。ですが、それはバルセロク地方のやり方をそのままこちらに応用しただけ。抜本的な制度改革とは言えないわ。下地はすでにあったわけだからね」
「ですが、このスピードで次々と庶民への教育を認める法案を成立させれば、保守派は間違いなくあなたを危険視する。急ぎ過ぎではありませんか。もちろん、この法案は文部省として価値のあるものだとはわかっています。私個人としても大いに賛成です。ですが、教育改革の旗手であるルーナ大臣の失脚を誘発させることだけは、私としては避けたいのです」
「ありがとう。次官の気持ちは確かに受け取ります。ですが、この大連立もおそらくあと半年間でしょう。1年後に私はこの席にはいない。ならば、多少のリスクは覚悟して突っ走らないといけません。たとえ、政治生命を失おうとも、それをかけるにはふさわしい法案だと思っています。学びたいという若者の時間を奪うわけにはいきませんからね」
私の覚悟を示すと、次官は優しく頷いた。
「そこまでの覚悟が決まっているのであれば、私はもう何も言いません。あなたについていくだけです」
「ありがとう」
問題はいつクルム王子率いる保守派の妨害が始まるかね。彼らにとっては庶民のために貴族に課税をするというのはもう耐えきれないだろうから。
『大臣、大変です!!』
秘書官が扉の外から大きな声を出してきた。
「何事ですか?」
『会議中に申し訳ありません。新聞に、教育法改正法案の素案が流出したようです』
「なんですって!?」
紙面には、私たちが作った教育法改正法案のプロトタイプが詳細に書かれている。どうやら本物のようね。
「内部リーク、ね」
やられたわ。保守派の職員はできる限り遠ざけたけど、限界があったということか……
『大臣、宰相閣下が内閣府に来るようにと連絡が……』
もうリークが分かっていたかのようなスピードね。
すべて、あなたの差し金でしょう、クルム王子?
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