第193話 村へ

 バルセロク地方でお世話になった人たちに挨拶を済ませて、自分の本籍地であるアレンの領地である村へと帰る。


 ちょくちょく、こちらに帰ってきていたのに、とても久しぶりの気分。


「ルーナ様、おかえりなさい!!」

 いつものようにルイちゃんが、私たちを出迎えてくれる。


「ただいま、ルイちゃん。でも、さすがにもうルイちゃん呼びは失礼かな?」

 私の最初のお友達に挨拶する。でも、彼女と最初に出会ってから、もう10年は経つのね。


 だから、ルイちゃんはすてきな女性になっていた。

 バルセロク地方の教育改革で、村にも学校ができたから、彼女はずっとそこで頑張って勉強していた。


 もう、誰にも負けないくらい難しい文章を読めるようになっているし、本だって大好き大人よ。


「いえ、やっぱりルーナ様には、『ルイちゃん』と呼ばれた方がおさまりがいいです。久しぶりのお休みですね。大臣閣下になってしまったなんて信じられません」


「やめて。今日は久しぶりのお休みなんだから、ルイちゃんに閣下なんて呼ばれたらそわそわしちゃう」


「だけど、一応、私の上司ですよね」


「まぁ、そうなんだけどね」


 ルイちゃんは学校を卒業して、バルセロク地方の教師になったわ。本当は中央の大学に進学したかったみたいだけど、学費も高いこともあって教師になってお金を稼いでいる。


 村の学校に赴任して、実家から職場に通えるようになっているわ。


「ルーナ様のおかげで、この村は豊かになりました。文字を読める人は増えたし、農業だけじゃなくいくつも副業をするようになってどんどん笑顔になっている」


「ええ、人は豊になればなるほど、心に余裕を持つようになるものね」


「私も子供たちが笑顔で勉強していると、心が救われますよ」


「そう、私も人生で一番大変だった時に、あなたの笑顔に救われたからよくわかるわ。ルイちゃんは、本当に楽しく小説を教科書にして文章を音読していたな」


 あの時の様子を私は昨日のように思い出すことができた。


「ルーナ様から託されたものを、私が次の世代につなげていくんですね」


「ダメよ。そんなこと言われると私がおばあちゃんみたいじゃない。私はまだまだ現役でいるつもりなんだから、勝手に老け込ませないで!」


 そう言って私たちは笑いあった。


「今日は、母も喜びますから、うちでご飯を食べてください。アレン様も。ねっ? いいでしょう?」


 少女のように私を誘う彼女を見て、自分のこの約10年間が幸せに包まれていたのを実感する。

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