第192話 知事辞職
私は挨拶と引継ぎを兼ねて、アレンとともにバルセロク地方へと戻った。
やはり、ここが私の帰るべき場所だと思う。
追放されて縁もゆかりもないこの場所に来てしまったけど、実家を失ってからはここが本当の家みたい。
バルセロク市の城門をくぐると、市民の人たちが熱狂的な歓迎をしてくれた。
「文部大臣就任おめでとうございます」
「国を変えてください」
「いままでありがとうございました」
市民の人たちがそう叫んでくれている。
まだ、正式な辞職宣言は出していないけど、みんなわかっているようね。慣れ親しんだこの土地を離れるのは怖いけど、すべてが終わったら、あとはここで皆と楽しく暮らしたいわね。
「みんな、ありがとう!」
私の視線は、涙でにじんでいた。
※
―バルセロク地方庁 知事室―
ここに知事として来るのも最後になるのね。
いままで支えてくれたふたりの副知事と地方庁の幹部たちが私を囲っている。
「まずは、皆さんにお礼を言いたいわ。いままで、支えてくれてありがとうございました。皆さんのおかげで、海賊騒動、教育・港湾両改革、クーデターをともに戦えたのだと思います。この数年間は私にとっても最高の時間でした。いつか、すべてが終わったら私もここにもどってきます。その時まで、この場所を皆様に任せたいと思います」
拍手が起きる。
万感の思いで、私は知事として職務に区切りをつけた。
「私、ルーナ=グレイシアは、本日をもってバルセロク地方知事の職を辞すことを発表させていただきます」
正式な宣言と共に書類を提出する。これで私の知事としての最後の仕事は終わり。
すでに、私と副知事2人が集まって後継指名については、話がついている。
ロヨラ副知事は、「すでに港湾改革も終わり、自分のライフワークに一定の区切りをつけている。私とルーナ知事でたすき掛けのように、知事の椅子を座っていたら、独裁のようにも勘違いされかねない」という理由で、私とロヨラ前知事は、「クリス副知事」を次期知事に推薦することになっている。
彼は貴族階級出身だけど、私たちと共に最初から盟友として頑張ってきてくれた。弱者にも寄り添える人だからこそ。大事な知事の責務を任せることができる。本屋さんたちを中心とする図書ギルドも、彼を支持くれると言ってくれていた。
すでに、教育改革では彼が矢面にでてくれていたし、知名度だって抜群よ。バルセロク地方には、前回のクーデターの件で中央政府に一定の不信感があるから、1か月後の知事選挙でも勝ってくれるはず。
「みんな本当にありがとう」
こうして、私の知事最後の日は終わった。
――――
(作者)
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