第191話 文部省
「それでは、文部省の幹部会議を始めます」
私が最初に参加する幹部会議が始まったわ。
本省課長級以上の幹部が勢ぞろいしている。
「まずは、ルーナ大臣。今後の方針について説明願います」
議事進行の次官から私にバトンが渡される。
さあ、戦争の始まりよ。
「私の在任中におこなわなければいけないことは、ただひとつです。それは、教育の拡充です。現在、庶民階級への教育の機会は完全に制限されています。しかし、それは国家の近代化を妨げている
これが私が知事時代から一貫して主張していること。
貴族階級の保守派には、自分たちが庶民と同等の扱いをされることに不満を持つ人も多いけどね。
「しかし、大臣! それでは将来の国の乱れを作ることにはなりませんか?」
初等教育課長がやはり私に異を唱えた。彼は貴族の名家出身。平民への差別を強く残している。
「国の乱れとはいったい何の根拠があるのですか?」
「自明のことです。仮に、庶民階級が貴族と同じ教育を受けることができるとなれば、彼らは増長し、むやみに権利を持ち出すかもしれません。貴族階級は、責任をもって国家を治めているわけであります。無責任な平民がその高尚な統治に異論をはさめば、国は大いに乱れ、多くの犠牲者を出すことに……」
「教育課長? 私はあなたの感情論を聞きたいのではありません。その考えの根拠となる事例や事実を知りたいのです」
「何をばかなことを……そんなことは自明の
「はっきり言いましょう。あなたの説明は根拠のないあなたの価値観の押し付けにすぎません」
「なっ、私を愚弄するおつもりですか?」
「では、問います。あなたは、グレア帝国の識字率をご存じですか?」
「えっ?」
「では、ヴォルフスブルク帝国の識字率は?」
「……わかりません」
残念ね。そんなこともわからずに、この議論をしようとしていたなんて……
「では、お教えいたしましょう。両国ともに、一般庶民も含めた識字率は20年前から8割を超えています。数年後には9割に達するでしょう」
「なっ!!!!」
「しかし、それらの国で大きな動乱は起きておりません。いや、むしろ数十年間、内乱やクーデターは発生していない。それどころか、軍事力は強くなり、経済力も豊かになっている。逆に言いましょう。我が国は、貴族が知識を独占し責任をもって国家を運営しているのに、両国の成長率には大きな溝をあけられている。さらに、大きなクーデターや海賊による都市の略奪まで発生しておりますよね?」
「……」
「残念ですが、私はそのような事例を踏まえてあなたの考えは、根拠のないものだとしているのです。わかっていただけたでしょうか?」
「はい」
彼はうなだれながら悔しそうにそう言った。
しかし、彼のような者に私の考えている教育改革を任せるわけにはいかないわ。申し訳ないけど、次の人事異動で彼を
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