第185話 王子焦る
財務省の優秀な官僚にも協力してもらい、私の法案は完成した。
さすがはプロね。なおしてもらった法案は誰も文句を言えないくらいの完成度になったわ。
自由党の幹部たちにも確認してもらって全会一致で次回の元老院に提出することになったわ。自由党の議席だけで、元老院に法案を提出する権利を持っているわ。だから、とりあえず第一段階はクリアね。
次の関門は、この法案が元老院で可決されて、ちゃんとした法律になることね。
議会の過半数の同意を得るためには、手を組んでいる保守党の同意が必要になる。
つまり、保守党を口説き落とさなくてはいけないわ。
だからこそ、私はある意味で敵の総本山でもある保守党本部にやってきた。護衛は、アレンだけよ。
ここで、保守党を事実上、掌握しているクルム王子と私たちは面会することになっている。
保守党本部の応接間には、王子が一人で私たちを待っていた。
「今日は来ていただきありがとう、ルーナ、アレン」
彼は冷たい笑顔でそう言う。
仕方なく会ってやったというのが本音ね。
「お忙しいところ恐縮です、殿下」
「そう、他人行儀になるな。元婚約者と元側近の間柄じゃないか」
目の前にいる弟殺しの眼は全く笑っていなかった。
「それでは、これが次回の元老院に提出をしようと思っている関税法の一部を修正する法案です。こちらに関して、保守党の方々にも賛同をいただきたいと思うのですが?」
「うん、案はすでに読ませたもらった。とてもいい考えだと思うよ。文章も申し分ない」
「では、賛同いただけるのですね?」
「うん、そうしたいのは山々なんだけどね。しかし、この法案を提出するのは時期尚早ではないだろうかね? これは事実上の貴族に対する増税法案だろう?」
「ええ、たしかに貴族階級の負担は増すかもしれません。しかし、それは生活必需品ではなく、お茶やワイン、宝石など嗜好品に関するものだけです。大きな懸念になるとは思えませんが……さらに、この課税は貴族にも利益を与える方向で使われます。一方的な不利益にはなりません」
「そうだね。でも、貴族はプライドを持っているんだよ。元老院とはいえ自分たちを縛るものには反発したくなるものさ。この法案は、焦らずにじっくり説明したうえで提出した方がいいんじゃないかな?」
「事実上の拒絶ということですか?」
「そう聞こえたかな。私はまだ、機ではないと言っているだけだよ」
このまま法案を棚上げにして、廃案にするのが目的という笑顔だった。
「……」
「じゃあ、今日はこれくらいにしようか。お互いに忙しい身だからね」
そうやって、今回の打ち合わせを終わらせようとする王子が、なぜか必死に見えて、私は思わず笑ってしまう。
「何か面白いことがあったかな?」
「ええ、殿下が私の予想と同じ対応をしてきたので、おもしろくて……殿下、失礼ながら言わせてもらいます。その程度で、私を止めることができると本気で思っていたんですか?」
―――
(作者)
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