第186話 王子裏をかかれる
「ずいぶんと挑発的な言い回しだな。どうするつもりだ。ルーナ」
一瞬だけ動揺した様子を見せながら、私に詰め寄る。
「殿下。あなたは常に人の上に立ってきていた。それだけの才覚もあり、実績も十分。ですが、あなたの器には限界がある。私ははっきりと申し上げます」
「どこまで
「いえ、事実を申し上げただけです。ここではっきり申し上げておきます。あなたは、王族として恵まれた地位をもっていたからこそ、その立場にたどり着けた人なんですよ。あなたは裏で次々と謀略を成功させていますが、唯一、私達、自由党を潰すことはできなかった。バルセロク地方知事選挙・海賊騒動・クーデター騒動……あなたは今まで3つの大きな謀略を私たちに仕組んできましたが、我々はそれをすべて跳ねのけた。我々にあって、あなたにはないものがある。それがわからない限り、あなたは私たちには及ばない」
王子は私の挑発に青筋を立てながら、私に怒りを向ける。
「何が言いたいんだ。政治の主導権はこちらが握っている。この大連立だって、お前らは追い詰められて
「すでに、自分が利用されたことすらわからないんですよね。たしかに、あなたの大連立構想は、自由党の流れを抑え込むためにはうまく機能しました。でも、それを補ってもあまりあるメリットを私たちにもたらした。それすら、わかっていなかったんですね。やはり、あなたは政治屋だ。たとえ、政権を獲得してもどういうビジョンで運営するのかを考えてすらいない」
「ふん、しょせんは数で劣る負け犬の遠吠えではないか!」
「あなたは、まだわからないのですね。保守党内には、あなたのその性格を危険視する反主流派も数多くいるんですよ」
「ま、まさか……」
「そして、保守党反主流派は我々が政権内部にいることで、協力しやすくなったんですよ。さすがに、反主流派といえども、政権外部の野党と協力することはハードルが高すぎますからね。ですが、殿下は謀略を使って我々を封じ込めることばかりに気を取られて、肝心なことを忘れてしまっていた。策士策に溺れるとはこういうことをいうのでしょう」
私がそう言い終わると、部屋の外からノック音が聞こえた。
最高のタイミングね。
「おお、ルーナ来ていたのか。お主の作った法案読ませてもらったぞ。とてもすばらしかったな。是非とも協力をさせてもらうよ」
部屋に入ってきたのは、前・宰相閣下だった。王子の策略で、宰相を辞任し反主流派に転落したが、保守党内には依然として大きな力を残している私たちの協力者。
「叔父上……」
王子は、自身の叔父のことをにらんだ。
「クルム殿下。これでわかったでしょう? 政権内で少数派に転落したのは、あなたなんですよ?」
―――
(作者)
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