第181話 大連立

「大連立!?」

 アレンが叫んでいた。

 まさか、今まで敵対していた自由党と手を結ぶつもりなの!? クルム王子め。いきなり仕掛けてきたわね。


 大連立。今回の場合は、挙国一致内閣を作るつもりなのね。

 保守党と自由党が手を組めば、議会の9割の議席を占めることができる。


 私は思わず口を開いていた。

「今回のクーデターからの復興ということで、挙国一致で政権運営にあたりたい。そもそも、クーデターが発生した原因が、私達自由党の勢力が急速に拡大したからというものでしたからね。保守党の言い分なら、私達からも少し歩み寄れということでしょうね」


「うむ、ルーナ副総裁の言うとおりだ。そして、保守党は4大閣僚のうち半分のポストを我々にあずける用意があるらしい。具体的に言えば、財務大臣と外務大臣だ」


「「「なっ!?」」」


 4大閣僚と言えば、政権の中でも最重要な地位を占める大臣のことよ。

 具体的に言えば、行政機関の頂点・宰相、軍事力をまとめあげる・軍務大臣、外交を司る・外務大臣、そして、強大な予算執行権を持つ財務大臣の4名。


 そのうちの半数を用意したということは、保守党からの誠意を示しているということね。


 ここまでされてしまえば断るのも難しい。宰相と軍務大臣は、保守党から選出されるとはいえ……


「難しい選択ですね。用意されたポストと政権を運営する経験は、確かに魅力的です。ですが、ここで保守党と手を結べば我々の持っていた勢いは間違いなくそがれてしまう。次の選挙で躍進する可能性も低くなる」


 私がこの大連立の問題点を示すと、フリオ閣下も頷く。


「だが、ここでこの提案を断ってしまえば、世間は我々を意固地な野党だと思うだろうね。保守党がせっかく対立を緩和させようと手を差し伸べたにもかかわらず、拒絶した自分たちの利権しか考えることができない危ない集団という評判になる可能性もある。保守派たちにはクーデター軍への同情もある。我々が拒絶すれば、保守派たちはより我々に危機感を持ち対立が激化していく」


 そうなれば、クーデター以上に危険な状況になるわ。クーデターで露見した国家の分断。分断が進めば、血で血を洗う内戦に逆戻りするかもしれない。


 みごとな王手チェックよ。私たちが提案を断る余地を与えずに、自分の政権内に組み込むことで勢いを奪う。


 でも、これは諸刃もろはの剣でもあるわよ、クルム王子?

 私たちがここで結果を残せば、保守党の存在価値は揺らぐ。


 保守党は長い間、唯一政権与党にあり続けた政党というアイデンティティを喪失する。


 私たちという劇薬を飼いならせるとでも本気で思っているのかしら? 何か用意しているのね。


 おもしろいわ。私たちがずっと防戦一方だと思ったら大間違いよ。


 自由党最高幹部会議は、大連立を受け入れることで合意した。

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