第182話 国政へ

 自由党最高幹部会議は、クルム王子が提案した大連立構想への参画を表明した。党内には一定の反対案があったけど、最終的には受け入れられた。ここで断ることは誰にもできないからね。


 ただし、こちらからもいくつかの条件を提示したわ。


・大連立は1年限りとすること

・両者の意見が対立した場合は、しっかりと話し合いをすること

・自由党が担当する大臣については、意見を尊重すること


 これを受諾したことから、私たちは政権に加わった。


 フリオ閣下が財務大臣、そしてがフェルナンド=エンリケス子爵が外務大臣に就任したわ。


 フェルナンド子爵は「俺よりもルーナの方が大臣に向いている」と反対したんだけどね。


 私は「知事と元老院議員、自由党副総裁を兼務して、そのうえで大臣までやってしまえば職務上、破綻する」と言って断った。


 アレンは軍務があるし、フェルナンド子爵は外交官畑出身者だから適任だわ。


 ちなみに、シッド将軍は大将に昇進して地方兵団総監になった。各地に配備されている地方兵団の総まとめ役ね。地方兵団は総数10万を超える大軍だから、その総監職は要職中の要職。


 軍官僚のトップが軍務省次官。

 軍の作戦を取りまとめる最高位は、総参謀長。

 そして、独立的な行動が可能である地方兵団の頂点が地方兵団総監。


 この3長官の上に、政治家である軍務省大臣がいるわ。


 やっかいなのは、大臣と次官がクルム王子と義父のカインズ子爵であることね。


 そして、アレンは史上最年少で少将に昇格し元老院議員のまま現役復帰。

 宰相閣下の辞任で、直属部隊のファントムは秘密裏に解散された。クルム王子に指揮権を握られるのを防ぎたかったのもあるわ。


 シッド将軍の補佐役として、地方兵団総監首席補佐官になったわ。軍の中央はなるべく自由党シンパを地方兵団関係に押し込んでおきたいのね。


 私は、自分がやりたいことのためにある程度自由が利く地位を望んでいるの。

 バルセロク地方は優秀な副知事がいるから、ふたりにある程度仕事を任せて、できた時間を国政に当てる。


「ルーナ、何か考えがあるんだろ? 大臣の地位を蹴って、何をやるつもりだ」

 私の執務室でアレンと私は密談する。


「ええ、大臣になってしまえば、省務に忙殺されてしまいますからね。私はここでやりたいことをやらせてもらいます」


「やりたいこととは?」


「ヒントは、大連立です。保守党と自由党は協力関係にあって、議会の90パーセントを抑えている。保守党は、表立って我々に反対しにくい。この1年間は自由党にとってボーナスタイムなんですよ。クルム王子は我々の勢いを削ぐために大連立を提案したのでしょうけど、私はそれを利用させてもらいます!」

 

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