第177話 深夜デート

「あ、あのアレン様? いったいどこに行くんですか? そもそも別に窓から外に出なくてもいいのでは……」


「何を言っているんだ、ルーナ。そのほうがわくわくするじゃないか!! なんか二人だけの秘密みたいだしさ」

 彼は私の手を引いてはしゃいでいる。まるで少年みたいな純粋さだった。


「でも、私達一応有名人ですし……街の人たちにでもばれたら、大混乱が」


「ルーナはまじめだな。こんな夜に救国の英雄二人がデートしているなんて思わないさ。それに今夜は国中が戦勝モードで浮かれている。こんな時はめったにないぞ。たまには、お祭り気分を堪能しようじゃないか」


「デート……」

 その言葉の響きを聞くと胸がときめく。大好きな人と、私はデートしているんだ。その感激によって頭がくらくらしてしまう。


「いい酒場を知っているんだ。近衛騎士団の時に通い詰めていた。ルーナと一緒に酒を飲みながら語り明かそう。たまには、羽目を外しても罰は当たらない」


「そうですね」

 私たちは街へと走り出した。


 ※


 アレンが案内してくれた酒場は、こじんまりとした隠れ家的な場所だった。


「ルーナは、ワインでいいかな? 俺は久しぶりに強いものを飲むか。グレア帝国製のウィスキーを頼む」

 私のために甘いワインを頼んでくれた。

 アレンがウィスキーなんて珍しいわ。いつもワインかエールだもの。


「騎士団時代は大きな仕事が終わったらここでウィスキーを飲むんだ。なんとなくそれで一区切りつけるみたいなものだね」

 私が不思議そうにしていると彼がそう説明してくれた。


「お待たせしました。ナッツとチーズのポテトサラダとヴォルフスブルク産ソーセージです。付け合わせは、ザワークラウトでよろしかったですよね?」


「うん、ありがとう」


 給仕さんがおつまみを持ってきてくれた。美味しそう。

 乾杯の後にアレンはウィスキーをストレートで飲み始める。


 グレア産のウィスキーは麦から作られる。工程に泥炭ピートを使うため、独特の香りになる。


 昔、試しに飲ませてもらった時があるけど、アルコールが強すぎてすぐに酔ってしまったから飲まないわ。


「楽しそうだね、ルーナ」


「えっ!?」


「さっきから、自然と笑顔になっている気がするし……プレッシャーから解放されたからからかな?」


「それだけじゃないですよ」


「そう。なら、一緒にお酒を飲めて楽しんでくれているんだね。それはそれで嬉しいな」


「そんなにストレートに言われると恥ずかしいです」


「そんなルーナが大好きだ」


「もう……」

 赤ワインを飲んで私は、今の自分の表情をごまかした。

 そうしなければ、嬉しすぎてどんな顔をしてしまうかわからないから。

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