第178話 約束の丘
私たちは、たくさんお酒を飲み続けている。
こんなに飲んだのははじめてかもしれない。少しだけ目が回る。このくらいにしておいた方がいいわね。
「ねぇ、アレン? 私をどうして好きになったの?」
「えっ?」
「いつもからかわれているからお返しよ。いいじゃない……よく考えれば聞いたことないわ」
「ずいぶん酔ってしまったんじゃないか?」
「ごまかさないでよ……聞きたいのよ。酔ってないとこんな話できないじゃない」
「臨時政府の宰相代理・議長代理がするべき話じゃないね。たしかに……」
「でも、いいじゃない。ここでは私たちはしょせん若い酔っぱらいのカップルだもん」
「そうだね。でも、ここじゃ言いたくないな。もっと景色がいい場所で話したい」
「もったいつけて……でも、そうね。その方がロマンチックよね。もうお酒もご飯もたくさん食べちゃったし」
「うん、少し散歩しようよ」
「でも、夜は危険じゃない?」
「目の前にいる男を誰だと思っているんだい?」
「たしかに、ね」
私たちはそう言って笑い合った。彼に一騎打ちで勝てる人なんているわけがない。
そして、私たちは外に出る。夜の風は、酔った頭にはちょうどいい気持ちが良いものだった。
※
私たちは、郊外から王都の裏山まで散歩した。裏山と言ってもここは丘みたいなものだ。私も嫌なことがあった時はよくここに来ていた思い出の場所。さすがに、次期国王最有力のクルム第一王子の婚約者となれば嫉妬されていたからね。いろんなわだかまりも多かった。貴族社会は本当に堅苦しいものだったわ。
だから、よく嫌がらせもされた。
そういう時は、余暇の時間を使って馬術の練習と称して、ここに抜け出して夕日を見ていた。そうすれば悩みが多い王宮生活でも頑張れたわね。
もちろん立場が立場だから、常に護衛を必要とされた。
近衛騎士団の誰かが先生役として付いてきてくれたけど、たいていはアレンだったわね。彼は若い時から、騎士団のなかで頭角を現していていたから先生としては最適だったもの。
そういうこと、か……
さすがに私も気がついた。ここなのね。
私たちの最初の思い出の場所は……すべてが始まった場所は……
「おぼえている?」
「もちろん。ここには何度も騎士様を連れて遊びに来ていたわ。もしかしたら、少しだけ火遊びだったのかもしれない」
「冗談がすぎる。私と一緒にここに来たお姫様は、いつもめそめそしていて泣いていらっしゃいましたが?」
「そうだったかしら……でも、ここなんですね?」
「はい、ここから始まったんだ」
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