第166話 崩壊
―アレン視点―
俺たちファントムは、山の上流側で待機していた。オリバー公爵軍は、案の定というべきか平原ルートを選択した。
前線の砦をあえて明け渡して、ブービートラップを仕込むことでゲリラ戦を警戒させる。そうすれば、ゲリラ戦対策に森が広がるルートは避けるだろう。オリバー公爵は軍人としては有能で、教科書通りの作戦を得意とする。
ゲリラ戦をさけて、兵力差による力攻めを狙うはず。
俺たちはうまく誘導できた。
教科書通りの作戦は、負けにくいが読みやすい。だから対策を立てることが簡単なんだよ。
平原ルートならばあとは簡単だ。シッド将軍がバルセロク付近に出陣し陽動をおこなう。そのまま、敵軍が渡河を始めたところを狙えば総崩れだ。
川の水を氷魔力で凍結させた。そして、マジックアイテム"魔力無効化の宝玉"を使うことで、氷結が溶けて濁流が敵を襲うことになる。シッド将軍がのろしを使ってタイミングを教えてくれることになっていた。
敵兵力に最も被害が出るタイミングでのろしが上がる。
俺たちは頷いて、水の封印を解き放つ。下流側の住民はすでにバルセロクへ避難している。俺たちがあえて敵軍に殴り込みをかけなかったのは、避難誘導が必要だったからだ。情報が漏れる可能性はあったが、敵は進軍スピードを重視したせいで気づかなかったようだな。
もうひとつのろしが上がった。これは「奇襲成功せり。敵軍被害甚大かつ分断に成功す」というメッセージだ。
完璧だ。すでに川を渡り切っていた兵士たちは疲労していて、援軍は絶望的。さらに、退却しようにも水量が増した川のおかげで逃げることはできない。さらに、名将シッド将軍が率いるバルセロク地方兵団が展開している。分断された前線の敵軍はなすすべもなく包囲されてせん滅される運命にある。
川を渡っていた兵士たちはすでに流されていて、大きなダメージを負っていて戦力には成り得ない。
残った戦力は、公爵を守っていた親衛隊だけだ。もちろん、そちらにも手は打っている。それは、明け渡した砦の兵士たちだ。彼らは普通の兵士に偽装しているが、イブール王国最精鋭部隊"ファントム"の構成員。捕虜として王都に送られる途中で、脱出し今ごろは空中から砦の再奪還作戦を起こしているだろう。砦にほとんど兵士はおかれていないはず。だから、少数戦力でも彼らの実力なら砦を奪取することはできる。秘密のトンネルも用意されているからな。
砦さえ取り戻してしまえば、挟撃状態を作り出せる。
「では、我々も行くか」
俺と部下百人は、出陣する。空中からの攻撃。狙うは、公爵の首だけだ。
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