第167話 小が大を食う

 俺たちはそのまま敵陣に突入する。空中から魔力で攻撃して敵陣を大混乱に陥らせる。敵は陣形が整っていれば、まだ対処できたはずだが、完全に混乱しており空中からの攻撃への対処はままならない。


「敵陣は大混乱です。逃亡兵も発生しているようです。それを処罰するために同士討ちまで……」


 副長の少佐が俺に状況を説明した。完璧だな。いくらなんでも、この状況は想定の外だったか。精鋭の王都防衛師団でも阿鼻叫喚あびきょうかんの状況では、統率を執ることはできない。


 後方にしか行き場がなく、さらに執拗な空中からの攻撃だ。どうしようもない。


「アレン大佐。オリバー公爵の旗が見えました」

 豪華に飾られた公爵家の旗は、戦場でもよく目立つ。


「俺が先に突入する。お前たちは、援護してくれ」


「「了解」」


 俺が一気に空中から距離を詰めると、公爵の親衛隊3人が彼を護衛するために前に出た。王都防衛師団のなかでも最強の3人の守護者ガーディアンか。相手にとって不足はない。


 俺は、一気に落下エネルギーを使い剣を振るう。3人の守護者の中でも一番体が大きな男が俺の剣を防ぐ。


 しかし……


「ぐぬぅ」

 男の剣は簡単に砕け、剣圧によって後方にいた2人と一緒に吹き飛ばされた。


 公爵は、その様子をみて覚悟を固めたかのように笑う。


「さすがは、イブール王国最高の英雄だね。見事な剣さばき……君のような人間が僕の部下にもほしかった」


「オリバー公爵ですね?」


「ああ、そうだよ。今は公爵ではなく、イブール王国国王オリバー1世だが?」


「あなたは正式な手続きをとっていない。自称国王だ」


「ずいぶんとひどい言い方だね。でも、すごかったよ。まさか、僕たちをここまで誘導するなんてね。そして、戦史上類を見ない見事な奇襲を成立させた。少数兵力による地形と魔力を活かした包囲殲滅作戦。僕は、たったいま歴史の目撃者になったんだ。キミとシッド少将は史上最高クラスの名将に列せられる。僕は、史上最低の愚将となるだろうね。キミたちのことだ。退却路は完全に断っているんだろう?」


「さあ、どうかな?」


「まあ、いいか。せめて、僕の人生の最期に贈り物をもらおう。キミはここで生きようが死のうが確実に名声を得ることができる。武人として名誉が手に入るキミを羨ましく思うよ。だから、一緒に死んでくれ」

 そう言って公爵は剣を抜いた。


「残念ながら、俺はここで死ぬわけにはいかないんですよ、公爵。俺は武人としての名誉なんていらないんだ。ルーナと共に、この国の変革を見るまでは死ねない」


 この戦争は最終局面に達している。俺と公爵は、直接刃をわしていく。

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