第163話 侵攻
―オリバー公爵視点―
僕の軍は、特に妨害を受けることなく、バルセロク地方に侵攻した。
領域外で決戦を挑む可能性もあったが……
総兵力で劣る賊軍は、やはりロマンチストではないようだな。下手なダメ貴族が相手なら華々しい最期を求めるとでも言って自爆してくるんだろうが。
さすがは、アレンとシッドの両名将が率いているだけある。
そして、僕たちは県境付近にある砦を囲んだ。
守備兵はわずかで、戦闘らしい戦闘はほとんど行われなかった。数時間包囲して、すぐに降伏した。これで僕たちはバルセロク地方に
捕虜の尋問をするために、砦の責任者である少佐を連れて来させる。
「そなたが、この砦の守備隊長か?」
「はい。しかし、我らは捨て石にされたのです。時間稼ぎの……ですから、我々はすぐに降伏しました。あなたがたにこの砦の物資は提供させていただきます。食料や武器などそろっておりますので、どうぞ活用ください」
砦の守備兵たちは、捕虜として王都に向かわせた。
倉庫を見ると、隊長の言う通り豊富な物資が詰まっていた。
「オリバー陛下、バルセロク地方はどんなものかと思っていましたが、恐れるに足りませんな」
「まさか、こんな豊富な物資を捨てて、どこかに逃げてしまうとは……」
「アレンとシッドは腰抜けでありましょう」
幕僚たちは笑っている。これだから、バカたちは……
「キミたちは本当に無能だねぇ。魔導士隊に、物資を確認させろ。おそらく、魔力の罠が仕込まれているんだろう。下手に物資に触れば、爆発するんじゃないかなぁ」
僕の声を聴くと、彼らは凍りついた。
別の方向で、爆発音が聞こえる。おそらく、不届きな兵士が物資を横領しようとして罠にかかったんだろう。
奴らは心理戦を仕掛けてきているな。ブービートラップ。戦場ではよくある古典的な手法だよ。
食料や武器を無造作においておき、その下に罠を仕掛けておく。数字上の被害はそこまでではないが、敵兵を疑心暗鬼にさせて、精神的に余裕をなくす作用がある。
だが、魔導士隊によって罠は簡単に取り除かれる。さすがにバカな兵士でも、自分の命は惜しいだろうから同じ手にはもうひっかからない。
この砦と物資を手放すことで、僕たちに精神的な動揺を誘ったつもりだろうけど、無駄だったね。
「きみたち? おそらく、バルセロク地方兵団の作戦はゲリラ戦だよ。あまり無理に進軍しない方がいい。補給線を伸ばせば伸ばすほど、敵の狙い通りになる。今回は、ゆっくりと面を制圧していけばいい。そうすれば、ゲリラ戦は戦力の逐次投入という悪手になる。数で勝るこちらが負けるわけがない」
さあ、楽しませてもらうよ。アレン?
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