第160話 オリバー公爵

―王都―


「オリバー卿! いま、最後の抵抗をしていた軍務次官の部隊を制圧しました。これで王宮及び元老院、各省庁は完全に制圧です。王都に我らに反抗する勢力は、もうありません」

 部下がそういうと、作戦室は歓喜の声が響く。いいねぇ、これで僕の目指した世界に近づくね。


「ご苦労。それで、軍務次官は?」

 軍務次官は、軍の現場が長かった人間で、剛直な男だった。

 どういう結末を遂げたかは、聞かなくてもわかっているよ。


「自決なさいました」

 クーデターに協力を求められて拒否し、王都内で抵抗運動をして、追い詰められて自決。まさに、武人の鑑みたいな男だったね。理念に殉じる。好きだな、そんな生き方は……


「了解。諸君、敵とはいえ立派な男が死んだんだ。黙とうくらいはささげようじゃないか」

 僕がそういうと、幕僚たちは目を閉じる。1分間の沈黙が続く。


「さあ、戒厳令を宣言しよう。ここからは時間との勝負になる。おそらく、自由党の巣窟になっているバルセロク地方のルーナ=グレイシア知事が我々と対決しようとするだろう。あちらの配下にいるのは、しょせん地方兵団だが……指揮官は、アレンとシッド少将になる。あのふたりは厄介だ。こちら側が大義名分を持たねばならない」

 下手に、カリスマ性があるふたりがいる。ルーナとアレンのコンビは、海賊事件の時を考えても優秀だと言わざるを得ない。


 だからこそ、僕たち大貴族の憂いになる前に、あの二人を排除しなくちゃいけないんだよ。なのにさぁ。どうして、宰相様はあの二人に肩入れするんだろうなぁ。意味が分からないよ。


 このまま放置すれば、選挙で保守党は敗北する。そうなれば、国体の維持は不可能だ。庶民が力を持てば、まちがいなく貴族たちは没落する。国王陛下や王族の人たちだって、革命が起きればどうなるかわからない。


 それでは、イブール王国は崩壊しちゃうよね。

 ならば、王国の守護者として僕が立つしかないだろうな。


 たとえ、歴史的には悪行だと思われるかもしれない。でも、いい。後世の歴史家なんて、ここまでくれば関係ないよ。


 僕は、僕が考える正義を執行する。

 幸運なことに、僕は公爵家の人間だ。


 公爵家は、準王族の扱いを受ける。なぜなら、公爵家は王の親族が創始しているからだ。よって、緊急事態になれば、国王にもなれる。王位継承権は、末端だが一応、あるのだからね。


 ルーナ=グレイシアがどんなに優秀でも、有力な王族を立てることは難しいはずだ。最大の懸念は、クルム王子だけど……


 彼は、今頃ヴォルフスブルクに囚われているはず。優秀な人だけど、今は邪魔でしかない。大人しく幽閉生活を送ってもらうとしよう。


 その時、作戦室の扉が強く開いた。


「オリバー卿、大変です。バルセロク地方が、イブール王国臨時政府の樹立を宣言しました。代表はクルム第一王子、首班はルーナ=グレイシアだと思われます」


 ほう、まさか救出するとは思わなかった。おもしろいねぇ。

 ここに来て仇敵同士で手を結ぶのかい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る