第154話 王子奪還作戦

―アレン視点―


 あの会議からすぐに、ファントムのメンバーは集結した。今回の作戦は、ヴォルフスブルクに秘密裏に潜入して、向こうの帝都にいるはずのクルム王子を奪還することだ。


 国境侵犯をして、ヴォルフスブルク軍の目を欺いて、速やかに帰還する。

 ヴォルフスブルクにも、イブール王国のクーデターの話は届いていると考えた方がいい。ならば、時間が経てば経つほど、王子の幽閉は厳しくなる。失敗しても同様だ。


 あまりにも多人数で、侵入したらリスクが高くなる。だから、俺たちが取るべき手は、少数精鋭。


 俺を中心に、カバーの3人でチームを組んだ。

 

 ヴォルフスブルクへの侵入ルートは、国境沿いに展開するヤラン大森林を利用した。森をたどって国境を越えたら、すぐに魔力で飛翔する。この飛翔技術は、イブール王国だけが持つ切り札。イブール王国の軍事部門でも、ファントムだけが保有している軍事機密。だからこそ、ヴォルフスブルクは対応することができないだろう。


 そして、おれたちはヴォルフスブルク帝都・ベンルにたどり着いた。魔力都市として有名な大陸最強国家の首都だ。俺たちは、帝都近くに降り立って街の様子を確認した。


 不用意に不審者が近づけば、魔力で撃ち落とされる。

 ここからは事前の準備が生きてくる。


「司令、これが"協力者"が提供してくれたベンルの防空網の予想図です。西門からわずかにスキがあると思われます」


 イブール王国は、常に大陸最強国家を隣国にもっている。いわば、常時滅亡と隣り合わせということだ。だからこそ、大国の動きには敏感にならなくてはならない。


 よって、イブール王国は長年の時間をかけて、ヴォルフスブルク内に諜報網ちょうほうもうを築いている。その協力者を通して、ベンルの情報は筒抜けになっている。


「問題は、殿下がどこにいるかですね。通常ならば、迎賓館かイブール王国大使館のどちらかでしょうが……」

 

「移送されている可能性もある。そのふたつは防御に適さないからな。そうなれば、ベンル宮殿にいる可能性もある」

 そうなれば、敵国の中枢に突撃しなくてはいけない。


「かなり難しい任務ですね。どうします?」


「大尉と中尉は、住民を装って、迎賓館と大使館の様子を探れ。王子がそこにいるなら、あわただしく動いているはずだ。護衛も物々しくなっているはずだし、数も通常より多くなっている。様子を探って、すぐに魔力通信を俺たちに送ってくれ。その状況を確認して、俺と少佐が殴り込むをかける」


 部下たちは、力強く頷いた。

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