第153話 クルム王子
「おそらくだが、クルム第一王子は無事なはずだ」
意外な人物の名前がアレンからは発せられた。
「クルム王子が……」
私はその名前を聞いて絶句してしまう。
少なくとも元老院にいなければいけない名前だったから。
彼は、外務省の副大臣の要職に就いている。さらに、次期国王の最有力候補。クーデター軍も確実にとらえておきたい候補の一人だったはず。
それがなぜ……
「これは近衛師団の後輩から聞いた話なんだが、クルム王子は秘密裏の外交交渉のために、事務方を率いてヴォルフスブルクに出張中だったらしい。王と宰相、外務大臣、近衛師団の幹部しかその事実は知らなかったそうだ。おそらく、蜂起した公爵も知らなかっただろうな」
なるほど、他国への出張中。ならば、クーデター軍も手が出せないわ。
仮に、王子を確保するために、軍を派兵しても、大陸最強の軍事力を撃破できるほどの戦力をクーデター軍は持たない。
「ですが、そうなると外交的にまずいですよね。クルム王子を
私としては、正直に言えば王子と共闘なんてしたくない。たぶん、向こうも同じだろう。でも、私たちにとっては共闘しか選択肢がなかった。
だって、私たちにとってはクルム王子の立場は魅力的だ。国王陛下の長男が明確にクーデターに反対すれば、大義はこちらにある。
王子のほうもそうだ。そもそも、王子は直接的な武力をもちあわせていない。つまり、権威があるだけ。彼の性格を考えれば、クーデターと協力しても、ヴォルフスブルクに助けを求めても、どちらにしても彼は幽閉されて
問題は、潜在的な敵地となったヴォルフスブルクにいる王子をいかに救出するか。
そんな無理なことができる人なんてひとりしかいないはず。
彼は、いち早く王子の無事を確認している。
もう、手は打っているのよね?
私はアレンを見つめた。
彼はゆっくりと頷いた。
「すでに、ファントムには招集をかけた。王都にいる者もいるが、あいつらならすぐに抜け出せるだろう。メンバーがそろえば、俺が直接、指揮を執って、王子を救出する」
「気が重いだろうけど、よろしく頼みます。私たちはその間に、反クーデター派まとめようと思います」
まさか、仇敵と手を結ばなくてはいけないなんてね。
今後やらなければいけないことを考えて、私はため息をつく。
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