第152話 宰相代理

「私が宰相代理……」

 その発言に会議室の空気はより張りつめた。どうして、私が……


「そうだ。イブール王国の法令では、宰相に何かあった場合の順位が定められているだろう? 2位は、副宰相。3位は財務大臣。4位は外務大臣。5位は元老院議長。そこから下の順位も細かく決まっている。だが……」


「ほとんどの人たちが、クーデターに巻き込まれて拘束中ですね」


「そう。おそらく、中央の大臣クラスは全滅だと考えた方がいい。大臣の後は、地方の知事兼総督が継承順位に入ってくる」


 総督とは、知事の別名と言えばいいのかしら。基本的に、知事は総督を兼務している。例えば、バルセロク地方知事の正式名称は"バルセロク地方庁知事"兼"バルセロク地方軍総督"。両者は本来は国王陛下に指名されて就任する役職だけど、選挙によって選ばれるようになってからは、選挙の勝者を陛下が任命することが慣例になっている。


 役所のトップとしては、私は知事の職位を使う。前回の海賊騒動の時のように地方兵団などを使う場合は、バルセロク地方軍総督の肩書を使うことになるわ。面倒だから書類以外は、知事と呼ばれることの方が多いんだけどね。


 ロヨラ副知事が続ける。


「総督の優先順位1位は、王都の総督だが……。王都の知事は敵の手中にあるはず。そうなれば、無事が確認されていて最も継承権が高い人物はバルセロク地方知事・ルーナ=グレイシアということになるな」


「私が、宰相の臨時代理……」


 その言葉の責任の重さにめまいがしそうになる。政府が完全に機能を停止して、私が国家にならなくてはいけなくなった。このまま、クーデターを抑えなくては外国からの介入があるかもしれない。内乱になってしまえば、多くの血が流れる。


 そのまま弱体化すればイブール王国は諸国に併合されるだろう。


 長引かせれば長引かせるほど最悪の事態になる。


「まだ、そうなるとが決まったことではありません。ですが、我々の責務をはたしましょう。ここにはアレンもいます。私たちは元老院の仮議長になれる人材を確保していますからね。あとは……」


 逃避に成功した王族を探し出すこと。

 そうすれば、国王代理・宰相臨時代理・仮議長がそろい臨時政府が発足した場合は正当性が発生する。


 逆に、クーデター軍は窮地に立たされるわ。諸国に承認されることが絶望的になるはずだから。


 ただ、問題は王族のほとんどが王都にいたこと。仮に、その中の誰かがクーデター軍と手を結べば、クーデター軍を正義とする国王が生まれかねない。


 できれば代理になってくれる王族は、国王様に近い人がいいんだけど……


「ルーナ、実はクーデターを逃れた王族にひとりこころあたりがある」

 アレンは複雑そうな顔で私にひとりの王族の名前を出す。


 それは意外な人物だった。

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