第151話 騒乱

「なにがあったんですか、アレン? 今日は元老院の開会日だったはずでしょう?」

 そのアレンがバルセロク地方に戻ってきていた。それも、相当慌てた様子で……


「ああ、俺は運がよかった。もう少し早く王都に戻っていたら、間違いなく巻き込まれていただろう。途中の川の氾濫で迂回路うかいろを使わなくてはいけないことが、逆に幸運だった。


 その瞬間、会議室の空気が凍りついた。最悪のタイミングだ。元老院には議員のほかに、開会日だったはずだから国王陛下や宰相様、閣僚たちが勢ぞろいだったはず。


 クーデター軍はそれを狙ったということね。

 でも、どうして……


「状況は? クーデターの首謀者は? いったい誰なんですか?」

 

 基本的にイブール王国は国王交代の時期以外は、クーデターなんて起こらないわ。よくあるのは、後継者になれなかった王子の一派の悪あがき。でも、たいていの場合は失敗しているし……


「状況は最悪だ。元老院は、クーデター軍に占拠された。おそらく中央の庁舎はほとんど陥落しているだろう。国王陛下、宰相閣下以下閣僚はみんな拘束されていると見た方がいい。首謀者ははっきりしないが、王都防衛師団が中心に蜂起ほうきしたらしい」


 王都防衛師団。イブール王国の王都を守る最精鋭部隊の一つ。近衛騎士団とならぶ王国の守護神的な存在よ。その指揮官は、たいてい大貴族の当主が就任している。


 現在の師団長は……


「なら、首謀者は王都防衛師団の師団長・オリバー公爵が中心になっているんでしょうね」


 オリバー公爵は、保守派の重鎮よ。3代前の国王陛下の弟が作った公爵家で、武人肌の貴族。まだ、若いけど、血気盛んな指揮で勇猛果敢な将軍らしいわ。王族と貴族による支配を維持することの固執していると聞いたことがある。現在、議会に自由党の勢力が拡大しているのを苦々しく思っていたはず。そして、宰相閣下は自由党の勢力拡大を許していたところがある。それに不満を持って、今回のクーデターが実行されたと考えれば、すべてのつじつまが合ってしまう。


 奴らの狙いが、宰相閣下とフリオ閣下を中心とする自由党の排除なら私たちは、かなり追い詰められているわ。


「おそらくそうだろうな。どうするルーナ?」


「まずは、すみやかに反・クーデター派を結集しなくてはいけませんね。仮に、クーデターを回避した高官がいれば、その人を中心に臨時政府ができるかもしれませんし……国王陛下と宰相閣下の臨時代理がいったい誰になるのかも大事です。各地方庁に連絡して、連携強化をしましょう」


 地方庁の幹事は、頷いた。


「待ってくれ、ルーナ知事。もしかするとだが……」


 ロヨラ副知事が、私に穏やかに大事なことを伝える。


「あなたが、宰相臨時代理になる可能性が高いと思うぞ」


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