第145話 王子の暴走

―クルム王子視点―

 外務省の会議室には俺の側近たちが集まっていた。


「それでは、会議を始めようか」

 参加者は、俺、義父、情報局長、そして魔女。

 これが俺の派閥の中枢メンバーだ。


 軍務省の事務方ナンバー3の官房審議官。

 内務省で各種地域にスパイを送り込み情報を集める情報局の局長。

 そして、世論誘導に大きな影響力を持つ新聞社の最高幹部。


 すでに裏の力はこの国で俺が最強だ。グラン海賊団の遺産もある。資金力はこれで誰にも負けない。

 俺の野望をことごとく打ち破っているルーナ陣営に恨みはあるが、今の主敵はそこじゃない。


 義理の父が口を開く。

「まずは、今後の方針ですな」


「そうねぇ。あたしたちの最大の目標は、クルム殿下を頂点に押し上げることよ」

 魔女は笑う。金髪の髪を優雅にいじりながら。その怪しい笑みを情報局長は冷たく見つめた。情報局長は、まだこの新参者の魔女を信用していないようだ。それは俺も同じだがな。この女の力は本物だが、劇薬だ。いつ敵に回るかもわからない。


 情報局長は、気を取りなり直して続けた。

「ええ、となれば……すでに利益を生む存在ではなくなったバルセロク地方からは完全に撤退し、中央の権力闘争に全力をかけましょう。自由党の力の拡大は脅威ですが、まずは保守党内で権力を固めるのが第一でしょう。ここで負けてしまえば自由党どころではなくなりますから……」


 その通りだ。ルーナへの私怨うらみは、この際は封印してしまえばいい。

 俺が宰相、そして、国王になればルーナなどどうとでも処理できる。罪をでっちあげて断頭台ギロチンに送ればいい。このメンバーが下にいればなんとでもなる。


 俺はうなずき意見を伝えた。


「ああ、ここからは保守党内での足場を作る。そして、俺の異母弟であるアマデオを失脚においこんでやる。情報局長、あのリストをみんなに配ってくれ」


「かしこまりました」


 情報局の力を使って作られたリストに、一同は感嘆おどろきの声をらした。


「このリストは、情報局が総力を持って作ったものだ。見て分かるように、保守党の政治家たちのスキャンダルが詳細に書かれている。男女問題や借金、不正献金。金銭問題で困っている者は、俺たちで援助し、恩を売る。グラン海賊団の遺産があるからな。そいつらは、こっちの派閥の兵隊ドレイとしてこき使う。そして、この中から敵対者が出たら……イブール新報の出番だ。紙面にこの情報を書くことで、敵対者を社会的に抹殺する。自由党が大きくなる前に、叔父上あのおとこ……宰相を頂点から引きずり落とすぞ!」


 一同は大きく頷いた。ここからは俺たちの番だ。

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