第146話 王子と妃の狂気
―クルム王子視点―
私は仕事が終わると、
結婚を機に王宮暮らしから、御所に移った。
王宮の監視から解き放たれて自由を
王宮に比べれば小ぶりだが、それでも大貴族の邸宅よりも大きい御所には、夫婦2人と使用人しかいない。もちろん、近衛師団の護衛はいるがな。
『許して下さいまし、ルイーダ様……』
入り口を開けると女の悲鳴が聞こえた。
またか。
「許すわけがないでしょう!! あんたが割った皿はとても貴重なものなのよぉ? あんたが何年も働いても返せないものを壊すなんてなんて不届きものなのかしらぁ。できの悪い家畜には教育が必要でしょ。だから、逃げるなぁ」
「きゃああぁぁぁぁああああああ」
どうやら、使用人のひとりが
使用人もここが王宮でなくてよかったな。王宮の国宝でも壊せば、一族ごと間違いなく取り潰される。ここでなら、仮にルイーダが力の加減を間違えて、使用人を殺してしまってもそれで終わりだ。
使用人の家族には、不幸な事故――階段から転落したとでも伝えておいて、見舞金をくれてやればいい。まあ、それでも使用人の命など、あいつが割った皿の金額よりも低いがな。
使用人が扉から慌てて逃げてくる。全身、赤いアザとすり傷ができていた。若いメイドだな。たしか、19歳の今年から仕え始めた若い使用人だったはずだ。平民出身のメイドだから、たとえここで痛めつけても問題になることもあるまい。
「殿下、お助け下さい。奥様が……」
その細い腕は震えながら俺の肩を触ってきた。
「どうしたんだ?」
「私がいけないのです。大事なお皿を割ってしまって。ですが……」
「なら、お前が悪いのだろう? どうして大事な皿を大切に扱わなかった?」
「違うのです。お皿を持った時に、誰かが……私を突き飛ばしたのです」
なるほど、新人いびりか。こいつは平民出身の使用人だから、貴族階級出身のいじめでも受けたんだろうな。
たしかに、同情の余地は残る。
だが……
こいつはしょせん平民だ。
「おまえは、誰の許可をもらって、イブール王国第一王子の体を触っているんだ?」
「えっ!?」
助けてくれると思っていたようだな。そんなに甘いわけがない。
「汚い平民風情が、許可もなく私の体に触れるな。このしれ者がっ!!」
「ぐへ」
無礼者の腹に、ケリを入れて吹き飛ばす。
メイドは女とは思えないほどの声を出した。
「殿下、お帰りなさいまし。申し訳ございません。無礼者が……」
ルイーダはその様子をせせら笑いながら、私を出迎えた。
「連れていけ。直接、指導してやる」
「わかりました……」
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