第140話 王子と魔女

―クルム王子視点―


 俺が外務省の副大臣になってから半年が経過した。

 カインズ子爵は、人事異動で軍務省官房審議官に昇進した。次期軍務省次官は確定路線。


 これで俺は軍務省と情報局、そして、外交を掌握しょうあくしつつある。国家の基本はほぼ抑えた。あとは、派閥を作って宰相と国王に戦いを挑むんだ。


 タイミングが最も重要になる。

 準備が整うまでは、あいつらには絶対服従。面従腹背めんじゅうふくはいでだまさなければいけないな。


 今回は、イブール新報の編集長が俺にインタビューに来ていた。


「お時間を作ってくださってありがとうございます。クルム殿下」

 編集長であるローラは笑っていた。40代の女性ながら、一切老いを感じない魔女。田舎貴族の令嬢の身から、伯爵家に嫁ぎ、家を乗っ取った希代の策士。

 嫁ぎ先の資産を使いイブール新報を買収した実業家でもある。


 この女は厄介だ。敵に回せば、新聞に何を書かれるかわからない。できる限りのサービスをしながら、インタビューに答える。


 場所は、外務省の副大臣室。高い家具が並ぶ部屋で、俺たちは2人だけだった。もしもの時の情報漏洩に備えている。


「これで、インタビューは終わりです」

「ありがとうございました」

 とりあえず、無事に終わって一息ついた。だが、魔女の攻撃しゅざいはそれで終わりではなかった。


「実は殿下……ここからはオフレコで教えていただきたいことがあるんですよ。バルセロク地方のことです」


「バルセロク地方?」

 嫌な予感がする。魔女は冷たい笑みを浮かべている。


「ええ、どうやら教育改革が始動したそうじゃないですか。それも最初のモデルケースがうまくいっていると大評判。貴族たちにも平民学校に通わせた方がいいのではないかと、噂が広まっているそうですよ。殿下の元婚約者様もご壮健でなによりですね」


 何かをつかんでいるな。


「ええ、ルーナは……いや、今はルーナ知事と呼ぶべきですね。彼女は、私の婚約者時代からとても優秀な女性でしたから。地方に活力を与えている姿を見ると誇らしいです」


「百点満点の答えですね。では、こちらの単語を聞いてなにか心当たりはありませんか?」


「なにを……」


「ルーナ知事と実家の伯爵家、アレン=グレイシア、行方不明になったナジン男爵、変死したエル=コルテス、グラン海賊団の遺産、放棄された港湾利権……」


 こいつは……どこまでつかんでいる。


「わけがわかりませんね。なにかの連想ゲームですか?」


「ごまかさなくても大丈夫ですよ。私はすべてをつかんでいますから、殿下ぁ? 私と手を組みませんかぁ」

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