第134話 王子と国王
―イブール王国王宮―
靴音を響かせながら、国王陛下に結婚の挨拶のための玉座の間にやってきた。ルイーダもかなり不安そうだ。
官僚たちは俺たちに形ばかりの言葉をかけてきた。この腹黒たちは……。
「陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
玉座には父上が優しそうな笑顔で俺たちを出迎えた。義理の母、現王妃も同じような作り笑いをしている。
宰相も玉座の左側に陣取って笑っている。
「ああ、よく来たな、クルムよ。最近は、保守党院内幹事として
「もったいないお言葉です。父上たちから見れば、まだまだ至らぬところばかりだと思いますが……」
「なに、へりくだらなくてもいい。今回はお前が主役なのだからな。ルイーダのような美しい女性を妻に迎えられたことを私も嬉しく思う」
その言葉にルイーダは震えた。どうやら感動しているらしい。
「も、もったいないお言葉です」
「ふふ、反応が
「はい……」
「あとは、今晩の晩餐会で話そう。悪いが、宰相とクルムと3人だけで政治の話をしたい。王妃とルイーダは別室に茶と菓子を用意しているから、楽しんできてくれ」
何も聞いていなかった提案に俺は少しだけ動揺した。
ここで動くのですか……叔父上?
※
「それで、父上。話とは?」
「ああ、簡単な話だよ。院内幹事の仕事をお前はよくやってくれたからな。新しい役職を用意したいと思っているんだ」
やはりか……
この前のアマデオの来訪もその布石か。
「役職ですか?」
「ああ、外務省の副尚書を用意した。ヴォルフスブルク帝国担当だ。やってくれるな?」
外務省の副尚書。外交担当部門のナンバー2か。院内幹事に比べたら花形部門。それも、大陸最強国家のヴォルフスブルク帝国担当。栄転だろう。しかし、叔父上にもメリットがある人事だ。
事実上の政敵である俺を、国内の政治から遠ざけるからな。
外務省と言えば花形だが、国内における権限は低い。俺が宰相になるためには国内の政治基盤を固めなくてはいけないのに……結婚パレードで俺の人気が上がっているチャンスを活かすことは難しくなる。
それを狙っての提案ですね、叔父上?
栄転だからこそ断ることもできない。
俺の本来の狙いは、財務省か地方省だったが……
「つつしんでお受けいたします。確認ですが、私の後任の院内幹事は誰ですか? アマデオですか?」
この質問には宰相が答えた。
「まだ、選任中だ。だが、アマデオはないよ」
「アマデオは、宰相代理留任ということで?」
「いや、アマデオには地方省の副尚書になってもらう予定だ。兄弟でこの国を盛り上げて欲しい」
俺は屈辱を必死にこらえた。
弟と同じタイミングで、出世。ついに、年下のあいつに並ばれた……
やはり、このふたりは、俺じゃなく、あいつを玉座につけるつもりか。
ならば、抗ってやる。
お前らをその場所から叩き下ろしてやる。
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