第125話 腹の探り合い

「わかりました。そのお話をこちらも受けましょう」

 私は覚悟を固めてアドリアン幹事の提案を受諾した。


「話が通りやすくて嬉しいです」


「さらに、あなたの地方議会議長選任もお手伝いした方がいいのでしょうか?」

 この発言は嫌味だ。でも、彼の思考を完全に読み取れていると思っているわ。この男は力を欲している。権力欲にまみれた男は常に上を目指す。どんなに権謀術数けんぼうじゅっすうを極めた軍師タイプでも、政治家は裏方に回るだけでは終わりたくないと考えているものよ。


「……」

 幹事は笑っている。やはり、図星ね。でも、行動原理が分かりやすいのは助かるわ。こんな狂犬みたいな人間とどうしても付き合わなくてはいけないのだから……


「では、よろしくお願いします」

 私たちはそう言ってアドリアン幹事のもとを去った。


 ※


 帰りの馬車の中で私たちは


「よかったのですか、あのような者と手を組んで?」

 ロヨラ副知事は心配そうに問いかける。


「仕方がないとしか言えないですね。勝つために、結果を出すために、私たちは使えるものは使っていかないといけません」


「ですが、アドリアンと言う男は劇薬ですよ。あれは、ただ勝ち馬に乗ることしか考えていない。理想もなければ、自分のことしか考えていない危険な男です。コルテス家すらうまく利用して自分の立場を強めていた奴です」


「ええ、私も正直に言ってあの男は信用ができません。いつか、彼とは対立する運命だとも思います。ですが、私たちには確かな実績を残す義務があるんです。海賊騒動で犠牲になった人たちのためにも、私たちの理想を叶えるために止まることは許されません。言葉は悪いですが、あの自分が世界で一番優秀だと思っている男を利用させてもらいましょう。私たちに対してのデメリットも、議会と対立しているという印象だけですから……それに、私には腹案があります」


「腹案ですか……政治家の名声は、一度下がってしまえば、上がることは困難です。そのリスクだけは理解しておいてください」

 ロヨラさんはまるで、孫に語り掛ける祖父のように私に語りかけた。


「ありがとうございます。ああいう男と話したからこそ、ロヨラさんやアレン、クリス……気を許せる仲間が近くにいることを感謝します」


 そして、私たちは馬車を動かし続けた。


―――

(作者)

明日は更新お休みです。次回は金曜日に更新します。

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