第124話 野望の男
アドリアン幹事は説明を続けた。眼光がより鋭くなる。
「簡単なことですよ。私たちが手を組めばいいのです」
「私たちが手を組む? しかし、あなたは保守党中央の監視下にあるのでしょう。議会の場で手を組むなんてできるわけがない」
「それはどうですかな。演技をすればいいのですよ」
「演技?」
「保守党のほとんどはあなたがやっている港湾利権改革に対して反感を持っています。それを利用して、私は保守党の英雄になる。あなたは、実利を手に入れればいいのですよ」
「なるほど、そういうことですか……」
「おやおや、これだけ説明しただけでご理解いただけましたか。あなたは相当キレる政治家のようですね。かわいい顔をしながら、
自分が世界で一番優秀だと思っている人、特有の態度ね。基本的に人を道具としか思っていない。クルム王子と同じ人種。ただ、目の前の彼は泥にまみれながら叩きあがった優秀な政治家なのよね。警戒しなくてはいけないわ。
「あなたは、議会の定員条例を利用するつもりなんでしょう? そうすれば過半数というボーダーは下がる」
議会の定員条例の中に、「議員50人のうち7割の人数が議会に参加していれば評決の結果は有効になる」という条文があるわ。50人のうち7割は35人。そして、そのうちの過半数は18人。私たちにかかる負担は軽くなるわ。
「ほう」
「そして、あなたたちにも利益があるように取り計らうとすれば、考えられる手段はひとつだけね。あなたの筋書きはこうでしょう。私たちが進める強権的な港湾改革に保守党の自称"良識派"は抗議のために議会を欠席する。あなたは、保守派を勇気づけるような素晴らしい演説をして、仲間たちとともに議会を退場する」
「いいですね」
「そうすれば、あなたの保守党内での評価はうなぎのぼりでしょうね。私、ルーナ=グレイシア知事に恥をかかせた英雄として取り扱われる。あなたはコルテス家という後ろ盾を失っても、自分の脚だけで歩いていける人気を手に入れる。私は、任期最初の議会で、それと対立している印象を与えてしまうけど、重要法案は可決されて実利的な得をするということね」
「ええ、悪くないでしょう?」
「あなたは、私に恨みはないの?」
「知事……政治家が個人的に動くようであれば、そいつは二流です。本物は実利を取るものですよ。言葉は悪いですが、コルテス家はもうなにも私には利益を生み出しません。そのような者たちに義理立てをしてもしかたないでしょう? あいつらも簡単に部下を切り捨てています。部下もそのような上司に忠義などありませんよ。さぁ、どうしますか?」
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