第118話 地方議会

 私たちは地方議会に向けて準備をおこなっている。本番まであと1か月。

 必死になっていた。


 提出する議題の草案作成。その草案に問題点がないかを確認する作業。提案理由の説明をするための台本作り。事務仕事だけでやることが多すぎるわ。


「知事なのに、こんなに議会におうかがいを立てなくてはいけなくて辟易へきえきしているだろう?」

 この作業に慣れているロヨラ副知事は笑っている。


「いえ、我が国はトップが暴走しないように、議会にもきちんと力を与えていますからね。仕方のないことですよ。でも、この忙しさだけは正直言って予想外でした」


「そうだろう。私も最初は死にそうだったよ」


 法律上、国王陛下が国家の最高意思決定者だ。だが、国王陛下はなるべく自分が権力を振るわないように求められている。


 だから平時のトップは宰相閣下だ。そして、宰相閣下は議会の代表者が就任する。事実上の国のトップは議会から派遣されることになるわ。これはかつての国王陛下が暴走して悪政をはたらいたことに起因している。良識派貴族が国王陛下をいましめるために集まったことが議会のはじまり。


 国王陛下と良識派貴族の抗争は過激化し、ついに国王陛下が外国に追放される事態に陥ったわ。その後は、後継の国王陛下が議会と話し合いに臨み、今の体制が完成したわ。


 でもそれは、国王陛下が完全なお飾りになったとは言えないの。

 陛下には3本の伝家の宝刀がある。


 ひとつは、議会が暴走した時に備えての議会の解散権。

 もうひとつは、個別法案に対する拒否権。


 そして、最後の切り札は、警察組織と軍隊に対する指揮権。


 この強力な権限は議会に対するけん制にもなっているわ。


 この例に習って地方も知事と地方議会はお互いに監視し合う立場にあるの。そして、困ったことにバルセロク地方議会は私たちが選挙で対立した保守党が主流派……


 つまり、基本的に私と議会は対立する構造になっているわ。今回の法案成立はおそらく困難を極めるわね。


 ロヨラ副知事はアドバイスをしてくれた。

「知事は国王陛下ほど強力な武器はないがひとつだけ切り札がある」


「"地方議会の解散権"ですね」


「そうだ。地方議員も失職は怖い。だから、知事と争っていても本質的にはおそれている。それを交渉で使うんだ。議会の解散をちらつかせて、徹底的に戦う」


「議会は綺麗ごとだけでは終わらないんですね」


「ああ、地方議員はえたけものだ。すべてが敵であることは避けねばならない。ひとりでもいい。味方を作るべきだろう」

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