第119話 地方議会の重鎮

 私たちは地方議会の重鎮と会うために庁舎を出る。いつものレストランで密会し今度の議長の今回のメンバーは私とロヨラ副知事、そしてアレンの3人だ。


 今日、会うのは議会の副議長よ。

 エル=コルテスが変死してしまったから、議長は現在、空席。だから、副議長が議会の事実上のトップよ。


 そして、副議長は……


「お待たせしました。今回は食事に呼んでいただき光栄です。ルーナ=グレイシア知事?」


 女性だった。カレン副議長。イブール王国では珍しい女性政治家だ。

 議会の慣例では、議長と副議長は別の党から輩出しなくてはいけない。


 エル=コルテスが保守党に属していたから、彼女は少数政党のバルセロク地方党の代表よ。


「副議長、お忙しい時に時間を作っていただきありがとうございます」


「いえ、森の聖女様と呼ばれるルーナ知事と食事を一緒できるだけでも嬉しいですわ」


「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです。このレストランはマリネが美味しいので楽しみにしていてくださいね」


 こうして会食がはじまったわ。カレン副議長は女性で少数政党を率いながら巧みな交渉力でキャスティングボートを握り地方政治に大きな影響力を持っている影のキーマン。


 時流を読むのが抜群にうまい切れ味鋭い政治家よ。彼女を味方につけることができるかどうかで今度の議会の成否が変わるわ。


 今回の会食は彼女との打ち合わせを兼ねている。ある程度食事をしてワインを楽しんだら仕事の話になるわ。


「しかし、すばらしい手腕でしたね。今回の海賊騒動とその後の戦後処理。かわいいだけの女性知事だと思っていた地方議員たちはきっと肝を冷やしましたね」


「みんなに助けてもらってやっとうまくいったんです。私の力なんてたかがしれています」


「そう謙遜けんそんしなくてもいいですよ。私は、知事のファンなの。あなたが暗殺されそうになった討論会の時にわかっていたわ。この人は本物だとね」


 ※


「やれるものならやってみなさい。その程度の魔力で私たちの理想は崩せないわ!」


 ※


 副議長は続ける。


「『クロニカル叙事詩』も読ませていただきました。素晴らしい教養をお持ちですわ。学者肌の政治家は大事なところで勝負弱いことが多いけど……知事はそうじゃないみたい。知事選の暗殺未遂を乗り越え、バルセロク地方を裏で支配していた子爵家を敗北に追い込んだ。並の政治家じゃこんなことできないわよ。あなたはきっとイブール王国史上でも有数の大政治家になれる潜在能力を持っている」


「ありがとうございます」


「さぁ、ワインも楽しみましたし、そろそろ仕事の話をしましょう。おそらく知事は私たちに協力を求めてこの会食を開いた、そうでしょう?」


「はい」


「単刀直入に言います。私はあなたたちに協力することはできない。政治は一度敗北すれば影響力を失いますから」


「このままでは私たちが負けると?」


「あなたがたに勝てる要素がありますか?」


――――


(作者)

明日は定休日です!

次回は金曜日を予定しています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る