第106話 戦後

―1ヶ月後―


 バルセロク市は少しずつ復旧に向かっている。私たちは忙しい日々を過ごしていた。


 海賊団との戦争は終わりを告げた。最強の海賊団と言われたグラン海賊団は船長を拘束されて、他の幹部も逮捕か戦死した。構成員もことごとく捕まり、事実上壊滅した。


 私達側の死傷者は351人。そのうちのの7割は地方兵団と警察の人たちだった。そして、無差別砲撃と市内に潜入した海賊が起こした暴動に巻き込まれた形で民間人にも多くの犠牲者を出してしまったわ。


 元港湾部長は、取り調べに対して完全に黙秘を貫いている。グラン船長はポツポツと証言をしているが、肝心の黒幕には言及げんきゅうしていない。


「やはり証言はしませんね、あのふたり」


 私と情報交換をしていたロヨラ副知事は情報を分析している。彼もついに正式な手続きを経て、副知事に就任した。副知事になるためには地方議会の承認が必要だからね。前知事を副知事にするのは前例のないことで、サプライズ人事と騒がれたわ。


「おそらく人質でも取られているのでしょう。コルテス家は用心深い輩ですからな」


「なら、向こうの筋書きはこうでしょうね。元港湾部長が罷免されたことを逆恨みし、旧知の海賊団に依頼し襲撃させたと? なぜ、一介の公務員がそこまで影響力を確保できたのか。少し考えたらわかるところまでは、捜査当局も踏み込めないのね……やはり、そこまで王族というのは、踏み込めないタブーとうことか」


「ええ、調べればすぐに後ろにコルテス家とクルム王子がいるのはわかってしまいますからな。相手は将来の国王陛下最有力。王族と対立するのは誰でも避けたい。当局も港湾部長の悪事を暴き、海賊団を壊滅させることができただけで満足してしまう」


「でも、失われた命は戻ってこない。彼らは英雄ですが、失われる必要はなかった。王族だからって超えてはいけないラインがあります。はっきり言って許されるわけがない!」


「ええ、それに関しては私も同じ意見です。ですから、この契機を逃してはいけません。コルテス家の財源に徹底的なメスを入れましょう。口実はつかんだのですから……元港湾部長を中心とした港湾汚職を追求して一気に改革を目指します」


「そうですね。今度はこちらから仕掛けていきましょう」


「では、計画を練ります」


「おまかせします。ロヨラさんが計画を作っいる間に私は王都に行ってきます」


「今回はなにを?」


「元老院で、復興予算についての証言をしてきます」


「それだけですか?」


「いえ、王子に宣戦布告をしてきます」


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