第105話 病院
私は軽傷の怪我を治療してもらってすぐに職務に復帰する。病院の事務室を借りることができた。庁舎はさっきの戦いで戦場になってしまったのでしばらくは使えないはずよ。防衛のために仕掛けた罠も処理しなくちゃいけないから。
前線の准将からは海賊船は壊滅し、アレンと協同して残党狩りに移行していると連絡があったわ。病院にも護衛の兵士が来てくれているからもう大丈夫ね。こちらの護衛に兵士を回す余裕もできたということだから。
「ルーナ知事、前線から連絡が届きました」
秘書課長が私のもとに説明にやってくる。前線に何か動きがあったらすぐに連絡をしてもらうように頼んだの。
「内容は?」
「我々の救援に来たアレン=グレイシア元老院議員が、グラン海賊団船長と交戦した模様です」
その報告に私は胸が押しつぶされそうになる。心配と不安が同居して、冷や汗が止まらない。彼が負けるわけがない。そう確信しているのに不安はなくならない。
「結果は?」
なんとかそれだけは言葉にできた。心配で結果を教えてもらえるまで、まるで死刑宣告を受けたときのようになる。
「はい、一騎討ちの末、グラン船長を撃破し、拘束に成功しました。すでに、残党は総崩れで、抵抗もできない状態です。勝負は完全につきましたね」
その言葉に安心して、私は胸をなでおろす。
「よかったわ。負傷者の治療は順調かしら?」
「それが突然の襲撃だったせいで医師の数が不足しておりまして……」
「なら、私も治療に協力します。これでも治癒魔力は得意だから」
「しかし、知事の職務は?」
「それはロヨラさんとあなたに任せるわ。職務の経験値的にもあなた達に任せたほうがスムーズかもしれない。ふたりは治癒魔力は使えないけど、事務処理は達人でしょ。その人しかできないことをしましょう。今は有事なんだからね。私が治癒魔力を施すだけで、助かる命は必ずあるはずよ」
「ですが、ロヨラ前知事は公職についていません。議会も行われていないので、副知事では……」
「イブール王国の地方自治法には、知事経験者は後任の知事から求められれば助言をしなくてはいけないという決まりがあるわ。少し拡大解釈気味になってしまうけど、その決まりを活用しましょう? 現況を考えれば、ほとんどの人は納得してくれるはずよ」
「たしかに、人道的な見地からみればそれが正解ですな。有事ということも考えれば納得してもらえるはず。わかりました、我々の方で事務は行ないます」
「よろしくね。私も行ってくるわ」
職員の人たちは、避難状況や被害把握、負傷者の治療で大変なことになっているわ。私もできることに全力を尽くすしかない。
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