第65話 選挙結果

 そして、3日後。私たちは選挙本部へと出向いたわ。

 選挙管理委員会の本部長から今日の正午に結果が言い渡される。


 やはり票の集計と取りまとめには時間がかかるわね。

 皆手作業でやっているから仕方がないわ。


 イブール王国の選挙は不正の余地がないように厳密に行われる。


 選挙結果に関してはどんな有力者だって拒否したり異論をはさむことはできない体制になっているの。


 まず、選挙の投票用紙には魔術により複製防止対策がされている。

 そして開票の時は複数の魔術師が立ち合い不正がなされていないか確認するの。


 また開票人の買収もされないように3重の手荷物検査があるし、集計した票の間違いがないように3人が同じ票を数える。


 ここまで厳しい状況を作ったうえで不正が認められた場合は厳罰が待っているわ。選挙本部員も買収されないようにかなり高額の報酬をもらっているの。


 だから1度選挙が始まってしまえば、暗殺や有権者の買収くらいしか不正のしようがない。だから賢い政治家は、ライバル候補を何とか出馬させないように選挙前に動くのよ。


 エル=コルテスがそうだったように……


 この状況では私がどんなにうろたえてもどうにもならないわ。あとは審判が下されるのを待つだけ。


 私は付き添いに来てくれたアレンの左手をゆっくりと握る。私の手は彼のぬくもりに包まれる。そして、彼の手が不動であるのに対して、私の手が小刻みに震えていたことも自覚する。


 やっぱり、怖いのね。私……


「大丈夫だよ。自分を信じろ」

 彼は力強く私を支えてくれる。


 私は目を閉じてうなずいた。


「それでは定刻になりましたので発表させていただきます」

 選挙本部長が口を開く。


「王国歴721年8月9日に投票されました第60回バルセロク地方知事選挙の結果を発表させていただきます。総投票数10万5034票です。得票数は届け順で発表させていただきます」

 本部長はゆっくりと結果の紙を開いた。

 まるで最後の審判を下す神のように厳格な表情ね。


「アーロン=コーラル463票、アルベルト=マクロン6321票……」


 ゆっくりと名前と結果が読み上げられていく。


「現職ロヨラ=フォン=シーロ……」


 エル=コルテスの代わりに出馬したロヨラ知事の順番ね。彼は番号を引き継いでいるから――


「3万8260票」


 会場が驚くわ。私とロヨラ知事の事実上の一騎打ちだったから私がこの数字を超えることができるかが争点となる。


 そして、最後に出馬を表明した私の順番がやってきた。


「ルーナ=グレイシア」


 心臓が高鳴るのを抑えて私は彼の手を強く握った。


「4万9761票」


 拍手がまき起きる。

「よって、ルーナ=グレイシアさんが第65代バルセロク地方知事に選出されました」


 選挙管理委員会は高らかに私の勝利を宣言した。

 私は自分が選ばれた実感がまだなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る