第64話 選挙当日

 そして、ついに選挙当日。

 私たちは早朝に投票を済ませて村へと帰る。


 選挙と言っても投票場はバルセロク地方各地に点在していて集計結果を合わせるのにも時間がかかる。


 選挙結果が確定するのは早くて2・3日はかかるはずね。投票当日の選挙活動は禁じられているから私たちは村の家でゆっくり過ごすつもりよ。


 アレン様は私の横で馬車を運転している。

 私は長かった選挙の疲れでウトウトしてしまっていたわ。


「さすがに疲れただろう? 村につくまで寝ていた方がいい」

 アレン様は優しく頭をなでてくれる。


「運転してくれているアレン様の横で寝るのはちょっと……」


「気にしなくていいよ。今日までルーナがどれだけ頑張ったかよくわかってる。私はキミを守ったくらいであとは横についていただけだから……疲れてなんかいない」


「その横で守ってくれていたことがどんなに心強かったか……あなたが守ってくれなかったら私はたぶん死んでます」


「姫を守るために騎士は存在しているんだよ。それができたなら騎士冥利みょうりに尽きる」


「そういうところですよ」


「どういうところだい?」


 言えるわけがないでしょ……そんなおとぎ話にでてくる騎士様みたいなところがかっこいいなんて……


 私こんなに少女趣味だったかなぁ。


 騎士様に憧れるなんて、王宮時代は考えてもなかったのになぁ。


 むしろあの頃は周囲が敵だらけだと思っていた。みんな私の席を狙っていたから。同性は私を追い落とそうとしていたし……異性の騎士だってもしかしたら私を暗殺して後釜に自分の親族をあてがおうとするかもしれない。


 だから、自分を守るためには用心深くならなくちゃいけなかった。


 なのに、今の私はアレン様の横で無防備にウトウトしている。

 変わってしまったわ。

 いろんな意味で――


 いえ、変えられてしまったというべきなのかもしれないわね。


「ところでルーナ? 私たちは婚約をしているわけだ。婚約者を様付けしなくていいよ。昔はアレンと呼び捨てにしてくれていたじゃないか……」


「あの時は私は王子の婚約者でしたし……でも、今は家柄も財産も地位もなにもありません。だから、呼び捨てにするわけには……」


「次期バルセロク地方知事閣下が何を言うんだい?」


「まだ結果が出ていませんよ。それにその言い分なら、あなたは元老院議員様じゃないですか?」


「良いじゃないか。せめて二人きりの時くらいパートナーとして振る舞って欲しいな」


 少しだけ勇気を振り絞る。


「じゃあ、肩を借りますね。アレン?」


「うん、ゆっくりおやすみ。ルーナ?」


 私たちは笑いあいながら幸せな時間を共有する。


―――

(作者)

明日は更新お休みです。

次回は金曜日の予定です。

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