第53話 舌戦

「お気遣いいただきありがとうございます。エル=コルテス様。たしかにひどい侮辱で私も怒りに震えていますわ」


 もちろん、怒りの矛先はあなたですけどね。

 こんな茶番の演出。


 許せない。


 いくら政争に勝つためとはいえ、やっていいこととやってはいけないことがある。

 

「まず、はっきり言っておきましょう。たしかに、あの災害の被害に私達一族は責任があります。しかし、事前の災害対策はしっかりしていました。緊急時に備えた非常物資は規定数以上のものを用意していました」


「責任転嫁するつもりか!!」

 ヤジが聞こえた。サクラね。


「そのつもりはありません。災害の時に大きな犠牲が出てしまったのは私たちの責任ですから。ただ、私たちは最善を尽くしたんです。それだけははっきり言っておきます」


 私は力強く宣言する。


「この偽善者め。ならどうして軍隊を早く要請しなかったんだ!!」


 別のヤジが飛ぶ。会場は騒然となったわ。

 いったいどれだけシンパを会場にいれているんだか……


 たしかに軍隊の要請はできなかったわね。でも、あれはクルム王子によって要請を握りつぶされたから……

 

 私の爵位返上も災害対応の不手際だと報道されているから仕方がないと言えばしかたがないんだけど……


 だけど、真の主犯が王子と暴露したら危ないわ。まだ、彼と正面から戦うには力が足りないから。


 王子とは戦わないようにしながらも自分の無実も主張しなくてはいけないわね。

 ここで投入しないといけないわね。


 実は、まだ自由党の幹部は全員は発表していないのよ。

 それは切り札を温存するため。


 クルム王子の性格を考えれば、周囲にアレン様と仲違いしたとは言えていないはず。プライドが高いからね。たとえ味方の陣営でも完全に信用しない性格を考えれば自分の恥(=側近中の側近に裏切られたこと)をできる限り隠しておきたいはず。


 だから、アレン様が私の味方にいるなんてエル=コルテスには想定外のはず。そして、こういう戦術に出るなんてわかりきっていたもの。


 つまり、こういう状況になるのは想定内よ。

 むしろひねりがなさすぎて拍子抜け。


 これもスタンドプレイばかりしている貴族たちの悪いところがでたわね。

 私に勝てる可能性も高いのに、もったいない。


「皆さまの言うことももっともですわ。私だけの言葉では信用できないでしょう。だから、証言をしてくれる人を呼んでおります。彼は、近衛騎士団の重要な役割を担っていた人で、災害時にも軍の中枢にいた方ですわ」


 この発言に会場はざわつき始める。

 切り札を私は投入する。

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