第52話 候補同士の舌戦
まさか、ここに敵陣営の大将が殴り込みに来るとはね……
でも、おもしろくなったわね。
「これはこれは、エル=コルテス議長。まさか、来ていただけるとは思いませんでしたわ」
「いやなに、私は森の聖女様の大ファンなんでね。ここでお会いできると聞いて飛んできたんだよ」
さすがはタヌキね。一見、私をおだてるように見せて警戒感を解こうとしているのね。でも、残念。私だって元貴族で元国母候補。この程度の状況では動揺なんてしない。
「それは光栄です。お互いに今度の選挙は正々堂々と戦いたいものですね」
私は嫌味を付け加えてみる。この前の怪文章の出元は間違いないエル=コルテス陣営だもの。
「そうですな。バルセロク地方は海運の中心。まさに国家の心臓ともいえるほど重要な場所です。この地方のトップを選ぶ選挙ですから慎重にならないといけませんな~」
嫌味には嫌味で返す。政治家の常とう手段ね。
災害時の失敗のことを
この国家の心臓部を平民の女には任せられない。
そんな自信が垣間見える話し方だったわ。
「それで質問とは?」
「いえ、なに大したことではないのですよ。もしかしたら、皆さんもご存じかもしれません。どうやらここ最近、怪文書が出回っているようでしてね。私のところにも届きました。これですよ、これ! そうだ、記者の皆さんにもみてもらいましょうか? その方が話が早い。秘書に複写を用意してもらっているんですよ。準備がいいでしょう?」
そう言うと勝手に文章が配布される。
なんとしらじらしいことをしているのかしらね。自分たちが作った文章だからこんなに早く用意できたんじゃないの……
「なんと卑劣な文章でしょうか? あの森の聖女たる高貴な思想家に『この1年間彼女は、立派に森の聖女を演じて周囲をだまし続けてきた。だが、彼女の行為はしょせんは欺まんであり、偽善である』なんて言っているんですよ。
まさかここまで酷い茶番を用意するとは……
怪文書だけならそこまで拡散力はないのに、あえてここで読み上げることでそれを補強している。
それも自分は私に同情しているなんて演技をしながら……
「ここまで酷い怪文書に私も憤りを感じているんですよ。つきましては、ルーナ=グレイシア候補にもどうかきちんと説明をいただきたい。私はそう思ってここに来たんです!」
会場の雰囲気が一気に張りつめていく……
――――
(作者)
明日の更新はお休みです。
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