第50話 怪文書
「怪文書にはどんなことが書かれているんだ!!」
アレン様は少しだけイライラしているように見える。
「こちらに出回っているものを持ってきました」
本屋さんは私たちに怪文書を見せてくれる。
それにはこういう風に書かれていたわ。
※
―自分の領土を見捨てて生き残った巨悪令嬢が知事選出馬―
ルーナ=グレイシアは”森の聖女"と呼ばれている。
たしかに、彼女がこの1年間でやってきたことは立派である。
字が読めない平民に字を教えてけが人や病人には無償で魔力による治療をおこなってきた。
そうこの1年間彼女は、立派に森の聖女を演じて周囲をだまし続けてきた。
だが、彼女の行為はしょせんは欺まんであり、偽善である。
そもそも彼女が本来の地位を失った原因を思いだして欲しい。
彼女の先祖代々の領土が大災害に遭遇した。
そして、彼女の家は大事な領民たちを助けることができなかったのだ。
甚大な被害が発生し彼女は領民を守るという義務を果たせなかったからすべてを失ったのだ。
彼女はすべてを返上し自分の命で罪を償おうとした。
その事実は、前回の災害の被害の責任が彼女にあるということを認めるに等しい。
つまり、彼女は領地経営に失敗した貴族の生き残りだ。
そんな女が知事となってこのバルセロク地方の長になるなど認めることはできない。
有事の際に彼女に地方の指揮を任せてはいけない。
彼女は能力に欠ける。
その事実だけは忘れてはいけない。
高貴な性格と政治家としての能力は別である。
※
「あげて落とす典型的な怪文書ね、これ」
私はあきれて思わず笑ってしまう。
「好き勝手書かれていますね。でも、どうやらルーナ様の性格にはケチをつけられなかったようだ」
男爵は苦笑いしている。
私、そんなに聖人じゃないけどな。
アレン様も乾いた笑いをしている。
「しかし、この悪口は否定するのが難しいぞ。あえて個人の性格攻撃に走らないように実績を上げるような形で書かれている。相当な手練れだぞ、この文章の書き手は!」
「ええ、そうですね。でも、怪文書の達人なんて私はなりたくはありませんわ」
私の冗談に二人は厳しい顔を完全に崩して笑い始める。
大丈夫よ。怪文書なんて学生時代に、第一王子の婚約者だったから嫉妬に駆られた同級生にたくさん書かれたわ。
その延長線上にあると考えれば少しは気分も落ち着く。
こういう時はこちらも正直に正面から突破するわ。
「アレン様、本屋さん。できる限りの記者さんたちを集めてください。保守派・改革派関係なしにお願いします」
「まさか!?」
「はい、そのまさかです。あらゆる質問に正直に答えましょう。有権者と私たちの信頼関係を作るチャンスです」
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