第49話 妨害

 私たちの陣営は選挙の手続きを完了していよいよ臨戦態勢になったわ。

 出馬させないように妨害されるのを覚悟していたんだけど、手続きはすんなり終わってよかった。


 いよいよ、来週から本格的な選挙運動解禁日。

 戦争が始まるわね。


 あとは向こうがいつから仕掛けてくるかね。クリス男爵はこちらからもネガティブキャンペーンや策略を仕掛けるべきだと言ってくれたんだけどね。


 私はあえてそういうダーティな手段はとらないようにしようと思うの。


 理由はいくつかあるわ。


 まず資金力と動員できる人数が違い過ぎて、正面から撃ち合うと私たちに勝ち目はないから。たしかな不正の証拠があるなら別だけど、それがないなら防御に徹して自分たちの主張を伝えて勝負をしていく方が安全よ。


 安易に策略戦争を仕掛けても手段や伝達方法が限られている私たちにとっては不利。もしかしたら、墓穴を掘ってしまうことになるかもしれないからね。向こうはそういう政争が得意な人たちだから、同じ土俵に上がらないようにしていくべきね。


 そう説明したら男爵も納得してくれたわ。


「わかりました。ルーナ殿がそう言うなら私もついていきます」

 私たちはこの1年間、ずっと共犯関係だったから不思議な信頼関係が出来上がっているわ。


 一緒の会議に参加しているアレン様は口を開く。


「だが、ルーナ? 向こうは権謀術数けんぼうじゅっすうに長けた政治家だぞ。間違いなく卑劣な妨害工作をしてくるに決まっている。それに俺たちはクルム第一王子からそうとう恨まれているはずだ。あいつらは何が何でも俺たちを追い落とそうとしてくる。どういう対策を用意してあるんだ?」


「そうですね。間違いなく妨害は発生するでしょう。だからこそ、こういう対策を考えています。私達3人だけの秘密にしてください」


 私はふたりに紙を手渡す。私が考えていた貴族退治のための秘密作戦よ。


「アレン様はこの紙の内容に従って動いてもらえればと思います。たぶん、エル=コルテスの思考や行動原理を考えれば、たぶんこの対策方法が一番有力だと思います。内務省にもコネクションがあるアレン様が動いてくれれば、うまくいくはずです」


「だろうな。だが、どうやってここまで深い情報をつかんでいたんだ?」


「私たちには出版ギルドのコネクションがありますから。本屋さんは記者さんたちに顔がきくんですよ」


「なるほど……」


 これで対策はみんなに納得してもらえたわ。

 あとは想定通りに動けばいいけど……


 会議中に本屋さんが慌てて私たちのもとにやってきた。


「大変です、皆さん!! 怪文書が出回っています!!」


 ついに来たわね……


 

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