第31話 大学者
ナジンを通して男爵家にお願いしたらクリスさんは快く引き受けてくれた。
子爵家と男爵家は利害で対立しやすいから敵の敵は味方の原理ね。
どうしても近くの領土を持つ貴族同士はライバル感情がぶつかりやすいもの。
子爵家と男爵家は一応、クルム王子陣営だけど対立感情が強いみたい。
重宝されて親戚関係まで結ぶ子爵家のことを当然、男爵家はおもしろくない。さらに、この地域の知事まで独占されたら子爵家に勝てなくなる。
どうにかして影響力を落としたいそうよ。
ここで私たちの利害関係が一致した。
これで情報源がアレン様というのも隠してもらうことができる。
さあ、作戦開始よ。
※
―クリス男爵視点―
ルーナさんと本屋さんに仲介してもらって私は、子爵と対立している大物と接触できた。
なるほど。大物が出て来たな。あの女性は平民と言いながら、どこでこんな人脈を作ることができるんだろうな。
森の聖女様というのは不思議な存在だ。
「はじめまして、クリスと申します」
「お噂はかねがね。男爵家の当主様が来て下さるとは……出版ギルドの長としてお礼申し上げる」
そうバルセロク市の出版ギルドの頂点であり引退したとはいえ閣僚経験者だ。
まさか70歳を超える老体で知事選出馬とは、恐れ入る。
「お会いできて光栄です。フリオ閣下」
フリオ=ルイス元文部大臣。哲学者としても有名で、宰相閣下に頼まれた形で5年間文部大臣を務めた大物だ。今は政治家を引退して文筆活動をしているとは聞いていたが……
「閣下は不要だ、男爵。それで本当なのか。『クロニカル叙事詩』の出版差し止めは子爵の差し金とは?」
「はい。本当です。私も子爵と同じ陣営にいる者ですが、あまりに横暴な行為です。義憤に駆られて報告させていただきます」
「なるほど。それで君は森の聖女様と一体どんな関係なんだ。今回の件は彼女を通してと聞いているが?」
「1年前、私の兄が行方不明になった時に捜索に協力してくださったのが彼女なんですよ。それ以来、いろんなアドバイスをいただいているんです」
「そうか。彼女は貴族に助言できるほど聡明な女性なのか」
「ええ、それはもう」
「ふむ、会ってみたいものだな。だが、その前に対策を考えねばならない。子爵家の横やりは予想外だったな。まさか選挙外の分野で攻撃をしてくるとは……」
「向こうもクルム王子を婿とすることから、立場を確立させようとしているのでしょう。陣営内でも抜きんでたナンバー2ポジションを確保していますし……」
「王子が後ろ盾にいるとは……これはかなりやっかいだぞ」
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