第30話 対策
「すまない。新しい婚約者の件だが、キミにももっと早くこのことを知らせておくべきだった。決まったのは1か月くらい前なんだ。だがなんとなく言いづらくてね。ずるずると先送りしてしまった」
「いえ、謝ることではないですよ。アレン様だってお仕事が忙しいのですから……」
「そう言ってもらえると救われた気分になるな」
「そして、クルム王子のこともよくわかりました」
「えっ!?」
「このタイミングで新しい婚約者を見つけたということは、私の
「正解だ。まるで殿下と話しているような気分だ」
「何年も一緒に過ごしたんです。思考のコピーくらいはできますよ。でも、彼の動きではっきりしたことがあります」
「聞かせてくれ」
「まず、私の死を彼は確信していることですね。喪に服すという行為は民衆の同情心を買うためのパフォーマンスですが、私が生きている事実が明るみになったら彼の評判が下がることになりますから。私が生きているという情報は、彼には間違いなく伝わっていないはず。伝わっていたならそんなリスクを彼が取るわけがない」
「なるほど」
「そして、もうひとつ。今回の出版許可取り消し問題の背後には知事選挙とクルム第一王子と子爵が控えている。つまり、アレン様の上司が絡んできている。あなたの力はこれ以上借りることができないということです」
「……」
「さらに運が悪いことに子爵と私は面識があります。彼との接触は避けねばなりませんね。私が生きていることを王子の陣営に知られてしまうのが一番の問題になりますから」
「すっかり政治家の顔になってきているよ。それでどうする?」
「やはり子爵の弟と対立している人と接触しなくてはいけません。許可をいただけますか?」
「毒を以て毒を制すか。だがリスクも大きいぞ。対立候補がキミの本当の立場を知っているかもしれない。脅されたり政治抗争の道具にされるかもしれない」
「代理を立てて彼と接触します」
「誰か候補者がいるんだね?」
彼の問いかけに私はうなずく。
私にはすぐに切り札が思い浮かんだ。
「彼の弟君にお願いしようと思います。すでに我々は共犯者ですからね。協力してくれると思います。彼も将来の知事とコネクションができれば得るものも多いはずです」
私は窓から畑仕事をしているナジンを指さす。
彼はもう生活にも慣れて村の人たちとも和解し楽しそうにジャガイモ畑を耕していた。
男爵家に動いてもらうわ。
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