第32話 悩み

「そうなんですか。フリオ閣下が子爵家の対抗馬なんですね」

 私はクリス男爵から打ち合わせの内容を教えてもらっている。


「はい。閣下は、このまま貴族階級だけが特権を有している現状を変えるために大臣よりも領域内では裁量権がある知事を目指しているとのことで」

 たしかに、大臣は政府の方針に逆らうことはできないわね。裁量権が認められる知事の方が自分の好きなことはできるわ。


「保守派の子爵家対改革派のフリオ閣下という対立構図なんですね。なるほどフリオ閣下が『クロニカル叙事詩』の出版を推し進めていたのは自分の政治的な理念もあるんですね。とてもご立派な考えだと思います」


「しかし、いくら大臣経験者でも後ろに王族が控えている対抗馬と戦うのは難しいかもしれませんね、ルーナ様はどう思いますか?」


「ええ私も同じ意見です」


「そこでフリオ閣下から提案がありました。前後策を話し合いたいので、あなたと直接会うことはできないかと?」


「えっ!?」


「やはり私を通しての対談は限界があると……あなたの聡明な考えを教えて欲しいということですよ」


「でも、私は……」

 フリオ閣下とは大臣時代に何度かパーティーでお会いしている。だから、森の聖女が死んだはずの私だとわかってしまうわ。


「やはり訳ありなんですね。もしよろしければ私にもあなたの正体を教えてくださいませんか。私たちは共犯者です。あなたの真実を教えてもらえなければ、私はあなたを信用することはできません」


 さすがのクリス男爵もここまで本格的な政治抗争になってしまったから引き返すことはできないはず。男爵家は、ある意味二重スパイのような立場よね。とても危険な立ち位置。なにかに失敗してすべての真実がばれてしまえば私と一緒に破滅してしまう。


 アレン様の許しはないけど、ここは私と男爵家の問題でもあるわ。


 もう限界ね。


「わかりました。ならば、フリオ閣下と私の面会に立ち会ってください。たぶん、そこですべてがわかりますわ。そして、あなたは戻ることはできなくなる。覚悟はありますか?」


「もちろん」


「では、私のほうでも準備もありますので、閣下との面会は2週間後に調整させてください。よろしいですか?」


「わかりました」


 私は覚悟を固める。アレン様には速達の手紙を書かなくちゃいけないわね。

 もしかしたら……


 私はまた、歴史の表舞台に立たなくてはいけなくなるかもしれない。

 その時は、第一王子との全面戦争を覚悟しなくちゃいけない。


 どうなるのかな。

 私は目を閉じて心を落ち着かせた。

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