第29話 黒幕
私は村に帰ってさっそくアレン様に手紙を書いた。『クロニカル叙事詩』の出版について圧力をかけている人間はいったい誰なのか。それを調べてもらうために。
アレン様の今の役職は近衛騎士団副団長。
軍の役職で言えば大佐。大佐といえばかなり権力があるわ。現場指揮官となれば数千人の部下がいるし、軍艦に載れば艦長になれる役職だもの。
それにアレン様は以前、内務省の情報局に出向していたこともあるはずよ。
つまり、検閲には詳しいはず。
出版の規制も内務省の情報局が元締めよ。つまり、元締めには私たちの陣営にコネがあるの。現場では何が問題か言えないかもしれないけど、元締めから聞き出してしまえば黒幕は判明するわ。
それに私たちにはアレン様と男爵家の2つの切り札があるわ。黒幕が相当な大物でもなければ黙らせることができるはず。
私も貴族の娘よ。こういうのは得意だもの。
※
「ありがとうございました。アレン様、それで誰が黒幕かわかりましたか?」
アレン様はわざわざ私に会いに来てくれたわ。
忙しいのに私に会いたいから無理をしてくれたんだろうな。
そこは素直に嬉しいわ。
「ああ。内務省時代の後輩から教えてもらったよ。思った以上に大物が出てきて驚いている。軍務省の法務局長を務めているカインズ子爵だ」
カインズ子爵。たしか階級は少将ね。閣下と呼ばれる階級……
軍務省の大物。戦場に出れば将軍だもの。
でも、どうして利害関係のない軍務省が私たちの出版計画に異議を立てるのかしら。
「どうやら今度の知事選が引き金らしい」
「知事選ですか?」
「そう。どうやらカインズ子爵の弟で輸入代理店を経営している男が今度の知事選に立候補を予定しているらしい。もうひとり有力な対立候補がいるんだがその人は出版ギルドが強く支持している人物で……」
「対立候補の支持基盤に対する嫌がらせということですか」
「ああ全くひどい話だな。そして、キミには言いにくいんだが言っておかなくてはいけないことがある」
「教えてください」
アレン様がとても言いにくそうにしているわ。よくないことか。
「カインズ子爵の娘ルイーダがクルム殿下の次期婚約者に内定している。キミの後任の国母候補ということだ」
「なっ……」
いや、わかっていたことよ。ショックがないといえばウソになるけどね。
しかし、クルム王子はずいぶん大物と関係を結ぶつもりね。
新しい婚約者の父親は軍部の大物。
叔父は大商人。
経済力と軍事力の両方を抑えることができるもの。
自分の恋愛感情なんて存在しない冷徹なリアリストが本性を出してきたわね。
私の元婚約者は、天下を狙って動き始めているわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます