第28話 圧力
「出版できないってどうしてですか!!」
私は本屋さんで大きな声を出してしまう。みんなで原稿を書いて校正まで終わったのに、出版当局が出してくれるはずの許可が突然、取り消されてしまったらしいの。
王国では「王族中傷防止法」という法律があるわ。本や新聞は当局の許可がなければ本を出版できないのよ。王族の悪口や不都合な歴史的な真実があるかもしれないから。
俗に言う検閲ね。不敬罪にならないように事前に出版予定の本を調査するの。今回はその法律に私たちの本がひっかかってしまったというのよ。
でも、『クロニカル叙事詩』の現代語訳がそれに引っかかるはずがないわ。
だって、あの叙事詩は建国の正当性も示す大事な史料よ。
わたしたちイブール王国市民が、ヴォルフスブルクの圧政に苦しんでいながらも団結して独立を勝ち取った苦い歴史の象徴みたいなものよ。貴族にとっては必読書だし……
「あの本は国民全員が読まなくてはいけない本なのに……すまない、ルーナさん。当局もずっと応援してくれていたんだ。でも、原稿が完成して便宜上の調査の段階で、突然出版不適当と言われて許可が取り消された。具体的にどこが問題なのか聞いても教えてくれないんだよ。これじゃあなおしようがない」
本屋さんも相当落ちこんでいるわね。
「いえ、本屋さんが謝ることじゃないですよ」
でも、変ね。なにかしらの妨害を受けているとしか思えないわ。でも、いったい誰がそんなことを……
『クロニカル叙事詩』の内容的には出版に問題ないはず。そして、出版局の担当者もずっと応援してくれていた。
となるともっと上からの圧力があったと考えるべきね。
出版局の幹部か。
それとも貴族か。
大商人か。
でも、私たちの本を差し止めていったいどんな利益があるのよ。
そうなるとライバル店とかの方が怪しいけど。
「いや、うちの図書ギルド肝いりの出版事業だからこれを差し止めると自分の首をしめることになる」と本屋さんは否定していたわ。
ううん、手がかりもないし理由もわからないわ。もう手詰まりよ。
でもここであきらめたくないわ。みんな時間をかけてがんばってきたのに……
こうなったら私も切り札を使うしかないわね。
アレン様に調べてもらおう。
※
「その方がいい。だが、次回からは絶対に相談してください。私はあなたの共犯者なんですから。そうしてもらわないと私達は本当の意味でパートナーになれない」
※
こんな風に言ってくださったんだから私も甘えさせてもらうわ!
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