第27話 裏切り王子、婚約するってよ

―王都―


「アレン、やっと喪中もちゅうが終わったぞ。そろそろ婚約発表をしなくてはいけないな」

 殿下は、楽しそうにそう話す。


「わかりました。ルイーダ子爵令嬢との婚約については進めさせていただきます」


「うむ。お前もいい女性を見つけてくれた。なにせ実家が金持ちだ。バルセロクの輸入代理店というのは外国との人脈を作るうえでも好都合だしな。向こうの両親も次期国王最有力の俺と関係を作れて歓迎してくれているそうじゃないか」


「はい。私の領土に近い都市の有力者でしたので、かなり強引に頼み込まれたのですが……お気に召していただきよかったです」


「うむ」


「しかし、ルイーダ子爵令嬢はなんというか強烈な女性ですよ。将来の王妃として、私は不安でもあります」


「たしかにルーナのほうが政治家としては優秀だろうな。だが、そのほうが扱いやすいというのもあるぞ。神輿みこしは軽いに限る。ルイーダは俺の横にいて国民から尊敬を集めて贅沢ぜいたくして過ごせば満足するような女だ。扱いやすくて助かるだろう?」


「……それに子爵家もかなりあくどい商売をしているとかでいい評判はあまり聞きませんがよろしいのですか」

 この人はまた女性を物のように扱うのか。


「お前は潔癖症けっぺきしょうすぎる。ルーナは高潔すぎた。あの女はいつか俺と対立するかもしれなかった。理想が高すぎるからな。この貴族社会においては、金が一番の力の原石だ。金を配ればなびかない貴族はほとんどいないんだよ? たとえ子爵家でなにかあっても金の力で対立者をだまらせればいいだろう。もっと柔軟になれよ」


「しかし、それではあまりに不誠実では――」


「誰に対して不誠実なんだ? 国民か? いいか、国民といっていいのは貴族階級と聖職者階級だけだ。たしかに参政権は誰にでもある。だがな、今の制度は最終的に貴族が勝つために作られているんだよ。平民の不満のガス抜きでしかない。平民宰相など現体制では絶対に生まれないんだからな。平民は貴族のために金を出していればいいんだよ。それが幸せなんだ」


 これが殿下の正体か。俺はずっと見抜くことができなかった。理想に燃えるルーナが太陽のような存在だったから、殿下の闇が隠れていただけなのかもしれない。


 俺が求めていた殿下の元での改革は事実上不可能になった瞬間だった。殿下がこのような思考であれば、俺の理想は実現不可能だ。


 やはり、ルーナにかけるしかない。だが、今の俺たちではまだ殿下に勝てるような力はない。


 まだ我慢しなくてはいけないな。

 俺もルーナが表舞台に出るまで、彼女をサポートできるくらい出世しなくちゃな……


 幼少期からずっと一緒だった殿下と俺はここで本当の意味で決別したんだと思う。

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