第24話 クロニカル叙事詩
『クロニカル叙事詩』
それは騎士と姫の悲恋物語。
古代イブール語で書かれた詩はずっと人々を魅了してきたわ。
イブールの地は、常に隣りの大国"ヴォルフスブルク"に悩まされてきた。
まだイブールがヴォルフスブルクに支配されていた時代の物語。
イブール独立派の騎士は、あるパーティーで美しい姫と出会う。
ふたりはそのまま恋に落ちる。
でも、姫には秘密があった。
彼女は、ヴォルフスブルクから派遣された総督の娘だったのよ。
騎士が反乱の準備を進めるなか、ふたりの恋は燃え上がる。お互いの立場を知らないまま。
そして、騎士が決意を決めたその日に、姫の真実が明かされて、全ては暗転する。
父親と恋人が争うことになったことを悲観して彼女は自ら命を絶つ。騎士もまた姫の死を知らないまま、総督軍との戦闘で重傷を負うの。
イブールの地に平和が訪れることを望みながら騎士は、最期に姫との再会を希望するもかなわずに死んでいく。
そして、天上世界でふたりは再会し結ばれるの。
悲しいお話だけど、貴族の子女はこの物語を特別に思っているのよ。
ただ、庶民の人たちには古代イブール語で書かれているせいであまり馴染みがないのよね。
素晴らしいお話なのに……
なので、今回の計画では『クロニカル叙事詩』を現代語訳してみんなが読めるようにしたいとのことよ。
有名な学者さんが中心になって、みんなで担当個所を決めて訳して解説するの。
学園の古語の授業ではこれを暗記するように言われていたから私も結構詳しいのよ。図書館にも解説本がたくさんあったらほとんど読んだと思うわ。
だから、楽しみ。解説本で勉強した内容を踏まえて、自分なりの考えも解説していきたいわ。特に、私の担当個所は二人が恋に落ちるところなの。中盤の一番大事な場所ね。
ここは丁寧に情緒豊かに訳したいわ。腕がなるわね。
こういう自分の意見をちゃんと書くのもいい刺激。最近はずっと写本作業をしていたから自分の考えを書くなんてなんだか新鮮ね。
『クロニカル叙事詩』は、イブール王国の国民みんなが知っておくべき本よ。今まで知識は貴族に独占されていたけど、庶民にまでいきわたるように学者の人が考えているというのも共感できるわ。
むこうのひとも私の活動を評価してくれて私を誘ってくれたそうよ。
会ったこともない人にも私の仕事を認めてくれる。
村の人たちから本屋さんと仲良くなって、そして、本屋さんから新しい世界が繋がっていく。人の輪ってこういう風に広がるのね。
とても素敵で幸せな広がり方だわ。
すべてはアレン様から始まっている。
「やっぱりどんな時でも最後にはアレン様のことを考えてしまうのね、私……」
自分の単純さにおかしくなりながら、私は叙事詩の中に深く潜っていく。
そして、私は思うのよ。ああ、私は彼が好きなんだなって……
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