第23話 詩の解釈本出版!?

 今日も私は写本の納品に来たわ。

 今回頼まれたのは、『イブール王国経済史』という本ね。列伝の番外編で作られた本らしいわ。


「いつもありがとうね、ルーナさん」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます! 報酬も増やしていただき嬉しいです」


 そうなのよ。私の写本が評判になっていて、報酬が金貨1枚から金貨1枚と銀貨5枚になったの!!


 銀貨10枚で金貨1枚と同じ価値だから、かなり報酬を上げてもらったのよ。


「それでは、今回納品の5冊です」


「うん、たしかに……あいかわらずのいいお仕事っぷりですね。さすがは森の聖女様だ!」


「もうあんまりからかわないでくださいよ。それに私が森の聖女様というのはどうか内密にしてくださいね」


「わかっていますよ。その方がいい。神秘的になるし、あなたがライバル店に取られてしまうリスクもなくなる。私たちは共犯者です。そこはよろしくお願いします」


 とりあえず、本屋さんから情報が漏れるのは大丈夫ね。村の人たちも私のことは秘密にしてくれるし、外部から村に来るのも税の徴収の時のお役人さんくらいだからね。アレン様の代理の人だからうまく話が済んでいるので大丈夫。男爵家も私の村に関わっていることがばれたら大問題だもんね。必死で隠してくれるはずよ。


 ナジンももう最近は仕事にも慣れていて普通に働いてくれているわ。むしろ、男爵時代よりも体がスリムになって笑顔が増えた気がするくらい順応しているわ。


 人って本当に変わるのね……


 順調すぎて怖いくらい。


「そうだ、ルーナさん! 実は、この詩集の解釈本を出そうと仲間内で決まってね。あなたにも参加してもらえたらいいなって思うんだけど、どうかな?」


「えっ!?」


 渡されたのは、『クロニカル叙事詩じょじし』という本ね。古代イブール語で書かれた有名な叙事詩。私も学園で勉強したことがあるけど、かなり難しい本よね。


「この現代語訳と解釈をみんなで書いて出版しようと思っているんだ。でも、そんなに片意地をはらなくていいよ。今回は政府公式じゃなくて、仲間内で作る本だから。みんな好き勝手に解釈しようと決めているからね。ルーナさんの意見を好き勝手書いてくれればいいから!」


「それは楽しそうですね。でも、いいんですか。私なんかが参加して……」


「森の聖女様が参加してくれるなんて、むしろ話題にしかならないよ。もちろん、ルーナさんは、私を通してしか表に出なくて大丈夫だから。安心してね」


「でも、名前も発表しなくちゃいけませんよね?」


「それも大丈夫だよ。ペンネームで出しておくからね」


「わかりました。なら相談したい人もいるので、その人に相談してからでも大丈夫ですか?」


「もちろんだよ! 嬉しい返事を期待しているから」


「ありがとうございます!」


 私はそう言って本屋さんを出たわ。

 あの叙事詩は、たしか騎士と姫の恋について書かれているのよね。私もそういう詩大好きだから是非とも参加したいけど……


 とりあえず、アレン様とも相談しなくちゃいけないわね。

 さすがにこんな大事なことをひとりで決めることはできないから、手紙で相談しないと!


 許してもらえるといいな。


 私は貸してもらった叙事詩を読みながら、この物語に登場するお姫様に自分を投影させるわ。


 騎士はもちろん、アレン様……


 子供っぽいのはわかっているけど、その妄想から私は抜け出せなかったわ。


「会いたいな」

 正直な言葉がポツリと外に出てしまった……

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