第21話 新しいアルバイト

 私は、本屋さんから頼まれた本を紙に写し始めたわ。

 この歴史書は100ページくらいね。『イブール王国史列伝』は、政府が編さんを始めた歴史書よ。自国の歴史を作ることが政府の正当性をアピールすることにもなるからって、私が貴族だった時代から偉い学者さんたちを集めて作ることになったのよね。


 全30巻を予定していて、この本はその最初の1巻よ。

 最初は国王陛下の伝記みたいな記述の歴史書が書かれて、その後は臣下の英雄たちの一生が描かれる予定らしいわ。


 最初は建国の祖であるカルロス=イブール陛下の記事。

 彼は、ヴォルフスブルクの圧政に悩んでいた反乱軍のリーダーだったわ。巨大なヴォルフスブルク帝国に反旗をひるがえすと、すぐれた指揮官として連戦連勝。


 数が少ないことを逆に応用した機動戦術で、軍事的にも革命を起こした人よ。


 彼の生涯の傑作、軍事史の伝説とも呼ばれるのが"カンルイの戦い"。

 世界史的にも有名なイブール独立戦争の天王山。現・イブール王国の西半分を手に入れた反乱軍は、カンルイ平原でヴォルフスブルク帝国主力部隊と激突。


 8万のヴォルフスブルク帝国に対して、6万の反乱軍は地形と機動力を生かして逆包囲を仕掛けて、世界最強のヴォルフスブルク陸軍を全滅させたの。敵軍を指揮していたヴォルフスブルク帝国皇帝も討死し大勝利を収めたわ。


 これによってヴォルフスブルク帝国の敗北が確定したわ。和平交渉の後、反乱軍はイブール王国政府の樹立を宣言して独立を獲得したのよ。


 でも、独立戦争の時のケガが原因で彼は戦争終結1年後に病没してしまう。


 カルロス=イブール陛下が今でも国民に人気があるのは、こういうところも大きいわ。悲劇の英雄だもの。


 歴史書を書き写しながら、本を読むのが楽しくて3時間も作業していたわ。このお仕事もいいわね。本で勉強しながらお金も稼げるもの。もしかして本屋さんも、新しい本を読む機会を作ってくれたのかもしれないわね。


 120枚の紙を渡されているから、間違えないように書き写す。

 昔は、紙じゃなくて羊皮紙を使っていてそれは、それは大変だったらしいわ。


 だって、羊皮紙は1頭の羊から6枚くらいしか取れないらしいもの。メモを作るだけで大変なお金がかかるのよ!?


 紙は"すきかえし"という方法を使えば古いものでも再利用が可能になるから、羊皮紙よりも安くそろえることもできるの。


 まぁ、庶民にとってはまだまだ高いんだけどね。このスピードならだいたい3日で1冊書けるわ。


 3週間後に3冊納品すれば金貨が1枚ももらえるのよ。

「もし余裕があったら3冊以上作ってもらっても大歓迎だよ。その分、割増料金を払うから。この本は国が作る知性を象徴みたいな本だからね。貴族の人たちから一度に30冊も予約があるんだよ。うちの使っている写本業者も手いっぱいでね。ルーナさんが手伝ってくれて本当に助かるよ」と言ってくれたから、私も頑張らないと!!


 金貨1枚で大人ひとりが半年過ごせるのよね。つまり、6冊書けば金貨2枚。1年間も生きていけるほどのお金だから、本もたくさん買えるわ。


 もしかしたら、夢の小さな図書館を開けるかもしれない!!


 夢が広がるわね。


 それに何度も書けば、それだけ本の内容をおぼえることができる。歴史の本はいろんな分野の知識を教えてくれるからとても勉強になるもの。


 もしかしたら、読書好きな私にとって天職かもしれない!!

 晴れの日は、畑を耕して野菜を作り、雨の日はたくさん写本をする。


 すてきな生活になりそう!


 午前中は畑仕事。午後の暇な時間は写本のお仕事。

 私は3週間写本に没頭した。


 ※


―3週間後―


「ルーナさん、3週間でこんなに写本を作ってくれたんですか!!!!」

 店主さんに納品に来た私は驚かれた。


「ええ、なんかコツをつかんだみたいで、どんどん書けましたわ!」


「でも、3週間で9冊なんて早すぎますよ!? お願いしていた量の3倍もあるじゃないですか」


「楽しくなってたくさん作っちゃいました。本の内容ももうほとんど暗記しちゃいましたよ!」


「すごーい、さすがルーナお姉さん!」


「うんうん、さすがは私の先生だわ!」


 ルイちゃんとお母さんも付き添いで一緒に遊びに来たのよ。今日報酬をもらえるはずだから、いつもお世話になっているふたりに本をプレゼントしようと思っているのよ。金貨3枚ももらえたら、本何冊買えるかしら?


 さすがに『法律大全』や『イブール王国史列伝』みたいな政府が作っている公式な本は高くて買えないけど、ロマンス小説や絵本、童話なら比較的に安く買えるからふたりに好きなものを選んでもらおう。


 ふたりとも文字が読めるようになったのが楽しくて、自分でドンドン自習しているのよ。だから、上達が早いの。


 私も真面目な本ばかり読んでいたから、ロマンス小説を読みたいな。


「すごい。誤字や修正もほとんどない完成度だ。やはりあなたは、ルーナさんは天才。これなら業者が作るよりも高く売れる」


「もう大げさですよ! でも、このお仕事はとても楽しかったからまた、声をかけてくれたら嬉しいです!」


「いや、こちらも是非ともお願いしたいですよ。そうだ、来月新しい本が出版されるんですよ。そちらもお願いしたいな」


「じゃあ、次に来るときに原本を渡してください。私も本を読みながらお金になるので最高ですから!」


 新しいアルバイトも順調に進んでいるわ!


「ああ、嬉しいね。じゃあ、これは報酬の金貨3枚とおまけに好きな本を1冊プレゼントするよ。最高の品質の写本を作ってくれたからね。なんでも持って行ってくれ!」


「いいんですか!! わ~ありがとうございます!」

 とても充実しているわね。村の人たちも優しいし必要とされるお仕事が3つもできた。


 皆に勉強を教えること、村長として皆をまとめること、写本を作ること。


 この3つね。全部やりがいがあってみんなが尊敬してくれるもの。その尊敬を裏切らないように頑張らないと!!

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