第18話 村長就任
ナジンが起こした事件を解決して1週間後。
アレン様が村にやってきたわ。
「くそ、どうして、俺がクワを使って農作業なんかしなくちゃいけないんだよ」
そして、農作業をしているナジンを見て、一言。
「これはどういうことか説明してください、ルーナ?」
ですよね。勝手に動き過ぎていたから怒られるのは覚悟していたんだけど……
実際に怒られるのはちょっとだけ怖いわね。
私は、自分の家でアレン様に一連の事件を説明したわ。
※
「なんと――ナジン男爵が違法徴収をしていたから、彼の弟と連携して罠にはめて失脚に追い込み奴隷として働かせていると……」
「はい。勝手に動いて申し訳ございません。アレン様は王都で手が離せないと思ったので……それにこの件が失敗した時に何も知らない方があなたに迷惑がかからないと思ったので」
「まさか貴族の当主を失脚に追い込んで、さらに奴隷として働かせているとは……」
アレン様は頭を抱えているわ。さすがにやりすぎよね。でも、そうしないと弟さんと協力できなかったし……
「ナジン男爵が、クルム王子派だったとは……王都でも行方不明が問題になっていたりはしていますか?」
「幸運なことに今回の件は、殿下は
「なら、よかったです」
「はい?」
「アレン様? 私は第一王子の婚約者として、ずっと政治の世界を脇で見てきました。政治家としての彼の性格も熟知しています。彼は今回の件を表に出すのは、自分の陣営にとっても良くないと判断したんでしょう? いや、判断じゃないわね。そう直感していた。彼は保身に関してはとても敏感ですから――私の父を切り捨てたように」
「……」
「ごめんなさい。嫌味じゃないんですよ。でも、クルム王子が動かないと決めたら動かないでしょう。もしあとで掘り返されても、税の違法徴収に行きつくので彼は真実を封印するはずです。こちらも王子陣営に対する切り札を手に入れることができました」
「あなたは私が考えているよりも政治家らしい」
「そうでしょうか? でも、あの件で自分を守れるくらい強くならなくちゃいけないと思ったんですよ」
「その方がいい。だが、次回からは絶対に相談してください。私はあなたの共犯者なんですから。そうしてもらわないと私達は本当の意味でパートナーになれない」
「ごめんなさい。次からはそうします」
「わかってくれればいいよ。私は、殿下とルーナ、どちらを取るかと聞かれたらキミを取る。それくらい覚悟を固めている」
そんなことをまじまじと言われると恥ずかしいわ。でも嬉しい。心臓がどきどきする。いつもそんな風に女の人にいうような性格じゃないのに……
私だけには特別ってことかな。そうだと、いいな。
「……ありがとうございます」
かろうじて私はそう言うことができたわ。
「それで、村長になる件はどうする?」
「どうして、それを……」
「連絡が来たんだ。だから、帰ってきた」
「そういうことですか」
村長さんが退任するという件は、とりあえず保留してもらっているわ。この件は領主様とも相談が必要だから。
「どうする? 私は君が適任だと思っている」
「えっ?」
「だってそうだろう? ルーナは平民という身分ながら、貴族の当主を失脚させるという実行力を見せてくれた。村の皆を守るために……誰もができることじゃないよ。ルーナしかできないことだ。だから、そんな実績を作ったルーナなら私の領土を任せることができるよ」
「でも、私が村長になったら、目立ちますよ。王都にも私の生存が知られるかもしれません」
「大丈夫だよ。村長と言っても村をまとめるのが仕事だ。税の徴収も私の代官がやるからキミが王都の者と接触する機会はないはずだ」
「……」
「任せてもいいかな?」
アレン様は、私の手を取って優しく問いかけてきた。
お金が無くなって不要と言われた私が、必要とされる。
不思議ね。今の私には貴族の時と比べて何も持っていないのに、今が人生で一番私のことを必要とされているわ。
「わかりました。お受けします」
言葉は勝手に口からもれていた。
でも、まごうことなき真実の言葉だったわ。
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