第17話 王子の暗躍

―王宮・クルム王子の部屋―


「リムル、情報局長就任おめでとう。これからはよろしく頼むよ」

 私室でリムル・新情報局長と会談する。俺は喪に服しているからな。この部屋でしか政治活動ができないのがめんどくさい。


「このたびは、クルム殿下のご尽力で、無事に局長になることができました。なんとお礼を言ったらいいのか……」


「そんな社交辞令は不要だ。その件については、しっかり心に刻んでくれていればいいよ」


「はっ、もったいないお言葉」


「ただ、これで我が陣営が、国家の情報をすべてつかむことができるようになった。また、一歩、次期国王に近づいたよ」


「クルム殿下ほどの智者でなければ、国王陛下になることはできますまい」


 そう言って俺たちは笑い合う。今日は、アレンに祝杯を用意させている。

 年代物のワインだ。俺たちは3人でワインを分け合う予定になっている。だが、アレンはずいぶん遅いな。


 内務省の情報局。国内最強の諜報ちょうほう組織を支配下におけたのは大きいよ。情報局は、危険人物や敵国のスパイの監視などに従事する局だからな。あらゆる情報が手に入る。ここで使った資金はかなり痛かったが、リターンは莫大。敵陣営の不都合な真実を調べることもねつ造することも思いのままだ。


 情報はつかんだな。あと、必要な分野は2つだ。


 軍事と金だ。


 力があれば、どんな敵ですら従えることができる。


 金があれば、なんでもできるからな。


 情報・力・金を3つがそろえば、権力は最も巨大になる。


 俺はあと2つそろえれば、この国の最高権力者だ。

 一番の問題は、金である財務省を、叔父上が独占的していることだ。まだ、俺は宰相である叔父上と敵対するのは避けた方がいい。


 なら、次は軍の方に影響力を持たなくていけないな。軍と情報が確保できれば、クーデターという選択肢も現実味を帯びる。


 弟たちとのレースでは抜け出すことができたが、まだ油断はできない。

 敵がどこにいるかもわからないんだからな。


「殿下、局長、お待たせしました」


「遅いぞ、アレン!」


 アレンは、この祝賀会に遅れてやってきた。時間に正確なこいつが珍しいな。


「申し訳ございません。どうやら、ナジン男爵領で何かがあったらしいのです」

 ナジン男爵? ああ、あの金にがめつい奴だな。一応、俺の陣営にいるが、正直に言えば、ただの金づるだ。田舎貴族で、何の権限も持っていないからな。


「なにがあった?」


「いえ、ナジン男爵本人がどうやら、狩りに行ったまま行方不明になったようでして」


「行方不明? 貴族の当主が? 魔獣にやられたか。それとも、お家騒動でも起きて暗殺されたか?」


「詳細は不明です。調査しますか?」


 どうするか。ナジン男爵が消えたところで何も問題はない。もし、弟たちとのお家騒動が原因であれば、やぶへびの可能性もある。深く追求するのは、各所に問題を引き起こしてしまうのなら、あんな田舎貴族の行方など取るに足らないな。


「いや、その必要はない。下手に調べて、問題でも見つかれば、こちらに不利になるかもしれないからな。あの男のいい評判はあまり聞かないからいろんな貴族に恨みを買っているだろう。深く調べて、うちの陣営に不適切なスキャンダルが見つかるかもしれない。なら、このまま放置しておこう。それ以外に特に問題は起きていないのだろう?」


「はい。当主代行には、異母弟が就任したようで、家中に混乱は起きていません」


「ならば、味方の間に、これ以上の混乱を起こすのは得策でない。放置だ、いいな?」


「御意!」


 そして、俺たちはワインを飲み始める。勝利の美酒は、とてもうまかった。

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