第16話 奴隷となった元・男爵
こうして、男爵たちの暴走によってはじまった一連の事件は終息したわ。
誰もケガすることなく、私たちの村は男爵家からの賠償金を手に入れたのよ!
そして、男爵は……
いえ、もうナジンね。彼は、事実上社会的に抹殺されたわ。
※
「兄上。私はこういうシナリオを考えています。あなたは、狩りに行ったきり、帰ってこなかった。どうやら、狩りの途中に、運悪く遭難してしまい、魔獣にでも殺されてしまった。しかたなく、男爵家は、私が継承する」
「大丈夫です。この件は、私と村長さん、そして、ルーナさんとも話し合いは済んでいます。あなたが、無理やり奪った絹の損害は、男爵家で補償します。もちろん、利子まで計算したうえで、私が責任をもっておこないます。それで示談です。あなたも自らの責任を取って、男爵家のために死んでください」
※
クリスさんが、こういう話をしたけど、これはあくまで脅しよ。
さすがに私たちまで犯罪者になりたくない。
殺しはしないけど、ナジン男爵は狩りに行ったまま行方不明っていうのは変わりないわ。そのままクリスさんが、男爵家の当主代行になる。そして、法律の定める期間、男爵は行方不明のままで、死亡認定されるのよ。
本人は、この村で罪を償うために、働いているんだけどね。
彼は村の
まあ、あの鎖は、犯罪者の捕縛用に使う魔道具。
術者の命令に背いた時は、魔力が自動的に働いて繋がれた犯罪者を痛めつけるのよ。
クリスさんは、「罪を償うために、この村の人たちにしっかり仕えること」という命令をしていたわ。なので、ナジンが、挑発的な行動を取ればすぐに鎖の魔力が発動して彼を痛めつける。
貴族としていびり散らしていた彼にとっては、自分が平民以下の存在になって働くというのが一番の罰だもんね。
自分が贅沢するために、農家の人がどんなに頑張って畑を耕しているか知れば、彼も変わるかもしれない。
そろそろ目が覚めるころね。少しだけ様子を見に行ってみましょうか。
※
―村の牢獄―
「ここはどこだ。出せー、おれは男爵だぞ。貴族に対して牢獄にいれるなんて許されると、思っているのか!!」
地下牢では、ナジンが暴れていたわ。
私と村長さんはそれを聞いてあきれて首を横に振った。
「どうしましょうか、ルーナ様」
「とりあえず、話を聞きましょうか?」
「そうですね」
私たちが牢屋の前に来ると、ナジンは私たちにとびかかるかのように襲いかかってきた。でも、牢があるせいで私たちには届かないんだけどね。
「ここから出せー、平民ども!!」
「あのね、ナジン? あなたはさっき弟さんに言われたことをおぼえていないの? どうなっても知らないわよ」
私は忠告のつもりで彼に警告する。
でも、聞くわけがないわね。鉄格子をバンバン叩く彼に鎖が反応した。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁああああああ。痛い、首が熱くて痛い。やめてくれ、助けてくれぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇ」
ナジンは、牢の中でのたうち回っている。やっぱり、噂には聞いていたけど、あれって本当に痛いのね。
「あなたは、私たちに仕えることになったんですよ。その鎖が、証拠です」
「お前ら平民の奴隷になるなんて、死んでも……ぎゃあああぁぁぁぁぁああああああ」
痛々しい悲鳴よ。お願いだから、言うこと聞いてよ。
「どうしますか。このままじゃ、体が持たないわよ?」
「わかった。わかった。なんでもするから、もう痛いのはやめてくれよ。これ取ってくれよ、頼む」
「あなたも貴族だから、わかるでしょ。その鎖は、魔力が切れるまで外れないわ。たぶん、10年くらいはそのままね」
「10年もこのまま……なんでだよ、なんでこんなことに」
「あなたが罪を犯したからでしょ。あんな違法行為が表に出たらこんな罰では済まされないわ。あなたは拷問の末に処刑されて、家は断絶よ?」
私の家のようにね……
「うう、死にたくない。死にたくない」
「なら、私達と一緒に畑を耕しましょう。あなたは、きちんと労働して罪を償うのよ。今まで自分がしてきたことをしっかり自覚して、きちんと反省するのよ?」
「ああ、わかったよ」
「じゃあ、明日から、たくさん仕事を頼むわ。働いてくれるわよね?」
「ああ、わかったよ」
まるで、糸が切れた人形のように同じ言葉を繰り返しているわ。
明日には、男爵家の賠償金も届くはずだし、いろいろと忙しくなるわ。
私も頑張らなくちゃ!
「これで終わりですね、村長さん!」
「いえ、まだ終わりではありませんよ」
「えっ?」
「だって、そうでしょう。あなたがいなければ村は救えなかった。私は、仲間を救うことができなかった。村長失格です」
「そんなことはないですよ。村長さんがいなければ、私たちはまとまることができなかったんですよ」
「そうかもしれない。でもね、もうこの老人が村を引っ張っていくのは限界なんだよ。新しい時代は、キミたちが作っていかなくちゃいけない」
「それって……」
「そう、私の後任の村長に、キミがなって欲しい!」
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