第15話 悪徳貴族の破滅

 ナジンは、屈強な男たちに取り囲まれた。男爵家の反当主派と、私たちは手を組んでいたのよ。ナジンに自白させて、すなおに謝罪するなら、私たちは見逃すつもりだったわ。


 でも、ここまで私たちをバカにしている人にかける慈悲なんてあるわけないわよね。


 もちろん、私たちは許したとしても、弟君たちは許してくれなかったでしょうけど……


 丸腰の私たちを武器で襲おうとするひきょうな貴族と戦うのよ。準備してもし足りない。アレン様が、領土に不在なら、代わりになる有力な存在と結びつけばいいのよ。私は貴族社会でそういう場をたくさん見てきたわ。だから、今まで見たことをそのままやり返せばいいの。


 ね、簡単でしょ?


「クリス。弟の分際で、平民と共謀して、兄をおとしいれるなど、どういうつもりだぁ!」

 ナジン男爵は、弟のクリスさんに激怒している。


「兄上。あなたの責任です。まさか、小金を稼ぐために、こんな違法行為に手を染めるとは……あなたは貴族の誇りを捨てて、動物以下の存在になり下がった。もはや、兄とも思えません。最後に無駄な抵抗をせずに、降伏してください。これ以上の醜態しゅうたいは、おやめください」


「何をバカなことを言っている。私は男爵家の当主だ。ここで平民を殺せば、すべて隠ぺいすることができる。私は選ばれた存在なんだ!!」


「そんなことをすれば、300年続いていて男爵家が断絶します。そこの賢い女性が、兄上の暴走を考慮していないとでも思っているんですか。このまま、あなたが暴走すれば、ここの領主のアレン様に連絡がいく手はずになっています。私は、だから来たのです。私が、あなたを捕まえれば、男爵家は取り潰されずにすみます」


「お前たちは、当主を犠牲にしてでも、生き残るつもりか。この薄情者めぇ」


「あなたが、勝手に税を取り立てたのがいけないのです。自業自得ではないですか」


「やれ、お前たち。このバカな弟を、村人ごと殺してしまえ」


 激高した兄は、部下に無差別殺害を指示したが……


 部下たちは、剣を床に落として、腕を上げて降伏の意思を伝えていた。

 いっさいやる気がないようね。


 よかったわ。


「なぜだ、なぜ、お前たちは動かない! このままでは、俺は破滅するんだぞ。誰でもいい。助けてくれ。俺は、没落なんかしたくない。まだ、人の金で贅沢したいし、貴族の特権につかっていたいんだよ」


 クリスさんは男たちを縛り上げていく。

 終わったわ。私たちの勝利よ。


 ナジン男爵は、弟に剣を突き立てられて震えているわ。


「兄上。私はこういうシナリオを考えています。あなたは、狩りに行ったきり、帰ってこなかった。どうやら、狩りの途中に、運悪く遭難してしまい、魔獣にでも殺されてしまった。しかたなく、男爵家は、私が継承する」


「兄を殺すつもりかぁ……嫌だ、殺さないでくれ。頼む、命だけは、命だけはぁ」


「大丈夫です。この件は、私と村長さん、そして、ルーナさんとも話し合いは済んでいます。あなたが、無理やり奪った絹の損害は、男爵家で補償します。もちろん、利子まで計算したうえで、私が責任をもっておこないます。それで示談じだんです。あなたも自らの責任を取って、男爵家のために死んでください」


「いやだあああぁぁぁぁぁあああああああ」


 太った貴族の絶叫が村に響き渡る。


「反省はしていますか?」

 私はナジンに、そう問いかける。


「ああ、反省している。すいませんでした。みなさんをだましていました。反省しています。どうか、殺さないでください。なんでもします。絹は売ってしまったので返せませんが、お金で払います。どうか、許してください」

 男爵は、貴族のプライドを捨てて、地面に頭を叩きつけて謝罪を始めた。


「ほかには?」


「えっ!?」


「ほかにも、謝ることありますよね?」


 私は冷たい目で、ナジンを見つめる。


「ひぃ」


「ないなら、死んでください」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


「一体、何を謝っているんですか?」


「皆さんのことをバカにしていました。字も読めない平民のことをバカにしていました」


「そんな平民に負けたのよ、あなたは?」

 私が残酷な事実を突きつけると、彼はぴたりと動きを止めた。

 最後に残っていた物も彼は失ってしまったのね。


「いやだあああぁぁぁぁぁあああああああ」

 何度目かわからないほどの、絶叫にみんなが失笑する。


「ルーナさん。それでは、手はず通りでよろしいですか?」

 クリスさんは、情けない兄の姿を見ながら、私に確認する。


「お願いします」

 私が首を縦に振ると、彼は罪人に近づいていく。


「いやだ、殺さないでくれェ。金なら払う」

 お金は、弟さんが払ってくれるから、必要ないんですよ。

 私はそう思いながら罪人を見つめていた。


「大丈夫です、兄さん。殺しはしません」


「えっ!? 助けてくれるのか?」


「ええ、ですから安心してください。命だけは助けてあげますよ、命だけは」


 そう言って、罪人の首にはリングが繋がれた。


「これは、まさか……」

 男爵は青ざめた顔になっていく。このリングの意味がわかったのね。


「ええ、兄さんは、今日からこの村でとして、村の方々に尽くしてください。それが、あなたが受ける罰です」


「俺を、平民の奴隷にするのか……」

 ナジンは、ショックでそのまま気絶した。

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