第13話 悪徳貴族を追い詰める

「このパスタ、すごくおいしい!!」

 ルイちゃんと一緒に入った食堂で、私たちはお昼ご飯を済ませたわ。

 彼女はペスカトーレを食べる。


 シーフード、トマト、ニンニク、ワインで煮込んだソースをパスタに絡めて食べる料理よ。漁師さんたちが、余りもののシーフードで作ったのが始まりと言われる料理。ルイちゃんから少しもらったけど、ここは、まさに港町だから、本当に海の幸が新鮮でおいしいわ。


 貴族時代は、毒味役の人が食べた後で食事をしなくちゃいけなかった関係で温かいものが食べられなかったから、こういうホカホカの食事に憧れていたのよね。村の人たちの料理もおいしいけど、やっぱりプロの作った料理は最高よ!


 ルイちゃんも嬉しそうにご飯を食べているもの。


「でも、ルーナお姉ちゃんはすごいです! 本屋の人も言ってたけど、本当に天才なんだね!!」


「ほめ過ぎよ。本屋さんも大げさなだけだから、村の人に話しちゃだめよ?」


「はーい!」


「よろしい! 本も安く買えたから、お腹いっぱい食べてね。ルイちゃんには、いつも助けてもらってばかりだから、お礼にごちそうする!」


 法律の本は、店主さんが格安で譲ってくれたわ。


「申し訳ございません。あなたが大学者様とも知らずに、失礼な態度を取ってしまいました」と平謝りで、私が逆に申し訳なかったくらい。


 ルイちゃんの勉強用の本も一緒に買えたから、今回の事件が落ち着いたら、一緒に勉強を始めないとね!


「お待たせしました。アクアパッツァです」


 私の注文していた料理も届くわ。

 魚をオリーブオイルと野菜で煮込んだ料理ね。


 やっぱり取れたての魚の鮮度は最高よね。


 王都の高級料理店の魚料理もおいしいけど、やっぱりとれたてをすぐに食べるのが最高の調理法だとよくわかったわ!


 ※


 そして、私は村へと戻ってきたわ。


 私は、畑を少しだけ世話して、部屋にこもる。


 さっそく買ってきた『法律大全』を開いたわ。

 最新の法令とその注釈がのっている解説書よ。


 まぁ、解説書と言っても、学者さんや裁判官さんくらいしか読まないから、とても難解。


 学生時代にこれをやっていたら、すぐに挫折ざせつしていたはずね。

 でも、今は私の背中にたくさんの人の命がかかっている。だから、やる気が違うわ。


 昔の偉人は、一度読んだらそのページの内容は覚えてしまって、もう読む必要がないから食べてしまったという人もいるそうだけど……


 さすがに、私はそんなことができないから、何度も音読して、文章を頭に叩き込むわ。


 ひたすら、必要な場所を見つけて、しつこく何度も読む。

 皆のために、頑張るしかない!!


 ※


 そして、ナジンたちが来る当日。

 すでに、村の広場には人だかりができていたわ。


 村長さんからすでにみんなに情報は伝わっているはず。

 みんな農具を持って、あの男たちを待ち構えている。


 私が失敗したら、たぶん暴発するはずよ。

 そんなことになれば、たぶん惨劇さんげきが起こる。


 そんなことを起こすわけにはいかないのよ。


 あいつらは、そんなところにやってきたわ。


「皆の者、ご苦労。それでは、税の徴収をはじめる。さあ、絹は、ここだな。どれどれ……」


 ナジンと護衛の10人の男は、私たちが用意した箱を開けた。


「なんだ。何も入ってはいないではないか!? これはどういうことだ。まさか、貴族である私を愚弄ぐろうしているのでないか? どうなるかわかっているのか、平民ども?」


 男どもは怒りに震えていた。


「ナジン様。正式な手続きで、税を徴収してください。まずは、徴収許可証を読み上げることから始めなくてはいけないのではありませんか?」


 私は、ここで前に出た。


「また、お前か!! 浅い知恵をつけおって。徴収許可証は、この前、見せただろ!! ほら、これだ。私が読み上げるのも面倒だ。勝手に読め。読めるもんならな! まぁ、お前にはハンコの色くらいしかわからないだろうな」


 ナジンは、私に紙を投げつけた。


「それでは、失礼しますわ。代官様?」


「なんだ、その眼は?」


「失礼ですが、あなたはこういう言葉を知っていらっしゃいますか? "のうあるたかは爪を隠す”」


「何を言っているんだ?」


「徴収許可証。我は、ウォーレン男爵領バルク地方の徴税権を、下記の者に委任する」

 私が書類の音読を始めると、男たちの顔色は一変する。


「なぜ、その書類が読める!?」


「そんなこと、どうでもいいじゃないですか? でも、この書類は変なところばかりなんですよね。この村は、バルク地方にありません。バルク地方は、ここから10キロは先の場所ですよね、ナジン様?」


「……」


「そして、この財務大臣の名前ですけど、先々代のエーデン様がサインされています。しかし、今の財務大臣閣下は、ジョンソン様のはず。これはどういうことでしょうか?」


「……それは、しょ」


「書類を間違えたなんて言わないでくださいね。この書類の日にちは、つい2か月前のもの。エーデン様が財務大臣を引退したのは、もう2年も前ですよね?」


「おまえ、文字が読めないふりを……」

「今ごろ気がついたのね。意気揚々と、私が仕掛けたトラップの真ん中に来たのは、あなたよ。ナジン様? いえ、ナジン=ウォーレン男爵様?」


「なぜ、俺の正体を……」


「さあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。でも、あなたがどうやってこの場を切る抜けるのかには、興味がありますわ?」


 私は、冷や汗をかいた悪徳貴族に王手チェックをかけた。

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