第12話 悪徳貴族を倒すために、知識無双!?

 詐欺グループが帰った後、私はひそかに村長さんと話し合いをするために、彼の家に向かったわ。


 私が事情を話した後、村長さんは苦々しい顔になっていたわ。


「まさか、ナジンたちが、物資をだまし取っていたとは……」


「あまり、気を落とさないでください。悪いのはすべて、あの男たちです」


「いえ、私もしっかり確認するべきでした。アレン様の代官だと勝手に信用してしまい、守るべき村人たちも守れなかった」


「あの人たちが、アレン様の代官というのは全くの嘘だと思います。アレン様は、誠実な方ですから」


「では、またあいつらが来たら、どうしたらいいでしょうか? 村の男たちであいつらと戦いますか?」


「それは危険すぎます。あの人たちは武器を持っていました。農具で戦うには危険すぎます」


「……」


 村長さんは、怒りに震えている。


「ルーナ殿。私たちは、しょせん取るに足らないような存在なのでしょうね。力を持つ理不尽な貴族たちの食い物にされ、ぞうきんのようにしぼり取られて一生を終える。たとえ、これを表沙汰おもてざたにしようとしても、力あるものたちがもみ消すのは簡単でしょうね。私たちは、もう誰も信用できない。もしかしたら、アレン様の差し金ではないかと疑う気持ちが強まってしまうのです」


 もう誰も信用できないということね。もし村人の誰かが暴発してしまえば、あいつらは武器を持って、私たちを襲うでしょうね。


 この事実を知っている村人を皆殺しにしてしまえば、簡単に口封じできてしまうもの……


 私は、あの集団がこの近くの貴族の一派だと思っているの。私腹をこらすために、領主がいそがしい領地に勝手に入って好きかってするという噂を聞いたことがあるわ。


 でも、税の違法徴収は重罪。領地の没収だけでは済まないわ。ことが漏洩ろうえいしたら、主犯は死刑。だからこそ、あのひとたちもばれたら、必死になって証拠隠滅いんめつに動く。


 たとえ、女子供でも容赦ようしゃなく口封じするはず。


 そんなことになれば、ルイちゃんたちだって……


 そんな結末はいやだ。


 この村の人たちは身寄りもない私にあんなに優しくしてくれたんだもね。

 みんなを守らずにして、どうやって恩を返すのよ!!


「村長さん、なら、私にすべてを任せてはくれませんか?」


「何を言っているんですか? いくらあなたが聖女様とは言え、あいつらは武装しているんですよ」

「大丈夫です。私に考えがありますから」


 悪党たちを捕まえて、村の人たちがアレン様に不信を抱かないようにしなくちゃいけないわ。


 大丈夫。私はみんなを信じている。


 この村を、私が守るのよ!!


 みんなを助けるためなら、私は手段を選ばない。


 ※


 あの人たちが来るまで、あと1ヶ月。その間にいろんな準備をしておかなくちゃいけないわ。


 問題は、あの人たちが具体的にどの法律に違反しているかを調べないことにははじまらない。


 でも、この村には本すらないのよね~

 さすがに、学園でも細かい法律を教えてもらってはいないし、条文も暗記しなくちゃいけないのに……


 どうにかして、本を読まなくちゃ! 法律の条文が必要!!

 でも、本は高級品。


 誰かに借りるか、お金を稼がないと……


 でも、農業は始めたばかりだし、収穫にも時間がかかる。


 誰か頼れる人はいないかしら……


 やっぱりこういう時は、人も物も集まる都会に行った方がいいわね。

 この近くの大きな街はどこかしら。


 明日、もう一度、村長さんに相談して、教えてもらおう。

 お金は……


 そうだ、アレン様が援助してくれたものがあるわ!!


 そちらを使わせてもらうしかないわね。本当は、申し訳ないから、使わずに取っておこうと思ったんだけど、こういう時だからありがたく使わせてもらおう。


 袋の中には金貨が何枚もあったわ。これって、相当な額よね?

 金貨1枚で大人1人が半年は生きていけるというし……


 とりあえず、軍資金はこれでめどがたったわ!!


 がんばろう。

 みんなを私のように絶望させるわけにはいかないわ。


 ※


―バルセロク市―


 アレン様の領土は、王国の東側に位置している。なので、一番近くの大きな街は、ここバルセロク市だ。


 いつもの村から馬車で1時間くらいの距離。私はルイちゃんと一緒に村長さんの馬車を借りてここまで来たの。


 ここは元々は港で、王都に次ぐ発展を遂げている街よ。だから、たくさんのものであふれている。


 外国の珍しいものや海産物、野菜などが市場に並んでいる。

 すごいわ。見ているだけで楽しい。


「護衛もなしに、外を自由に歩けるのは自由ね」


 私は思わず、本音を漏らす。


「えっ、護衛ってなに?」

 一緒に来ていたルイちゃんは驚きながら、私に聞く。


「ううん、ひとりごとよ! 気にしないで!!」

 危なかったわ。ルイちゃんじゃなかったら、ごまかせなかったもの。


「お姉ちゃん、あれがもしかして本屋かな?」

 ルイちゃんが大きな声で叫んだ。

 そして、私たちは、目当ての本屋を見つけたわ。


 ※


「本を売れないから、帰れってどういうことですか!?」


「だ~か~ら、うちは高級な本屋なの。いいか、あんたたちは、平民だろう。困るんだよな。平民が見栄を張って本屋に来るのさ。どうせ、文字も読めないし、冷やかしなんだろう? 冷やかしは、早く帰ってくれ」


 男性の店主さんはめんどくさそうに私たちに応対する。

 うっ、これが平民差別ってやつね。


「は~、めんどくさい。うちは、貴族様にしか本は売らないの! 平民なんかに本を売ったなんて、知られたらブランドが下がっちゃうよ」


 あまりにひどい対応で頭にくるわ。


 私、これでも学校の成績は良かったのよ?

 目に物を見せてやるわ。


 私は、本棚に飾られている『大憲章』を手に取ってページをめくった。


「大憲章第39条。偉大なるイブール王国政府は、大切な民を国家が定めた適切な法律によってのみ裁くことができる」


 私は、目についた条文を音読した。


「おい、困るぞ。商品に手を触れる、な……おい、あんた、今なんて言ったんだ」


「大憲章を音読しただけですよ?」


「大憲章を音読!? あの難解な本を……それもこれは古語で書かれた本だぞ! じゃあ、ここは……ここは何と書いてある」


「大憲章45条。元老院は、国王陛下が招集した時は、すみやかに会議を開かなくてはならない」


「完璧だ!!」


 店主さんは、青ざめていく。


「あんた、人が悪いな。さては、貴族様がお忍びでいらしたんだな。それも、イブール古語が読めるなんて、法務官僚様か学者様か……」


「いえ、ただの平民ですよ。いつもは村で、イモを育てていますから。ね?」


「うん、お姉ちゃんはね、ひとりで勉強して本が読めるようになったんだよ~すごいでしょ!! それで今日から私に文字を教えてくれるんだ! 今日は勉強の教科書を買いに来たの!」


 ルイちゃんが私に助け船を出してくれる。これで、平民差別なんてもうしないと考えを改めてくれるといいんだけど……


「天才だ。あんたは天才だ。農民が独学で古語を読めるようになった!? 聖女様だ。ここに聖女様がいる!!」


 うん?

 この反応は、もしかして、私、また勘違いされちゃってる??

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