第11話 悪徳貴族来襲

 アレン様が遊びに来てくれてから1週間。私はいつものような生活に戻っていたわ。


 夜に一人でベッドで泣きながら眠ることも減ったわ。心の傷は、少しずつ癒されているのよね。


 その日も、私は畑を耕して、午後はルイちゃんと遊んでいたの。

 彼女は、私の話す冒険者の物語が大好きみたい。


 私も、王都で読んでいた本をそのまま話しているんだけどね。


「ルーナお姉さんすごい!! いっぱい楽しい話を知っているのね!」


「昔は、たくさん本を読んでいたからね。ルイに教えたいお話がたくさんあるのよ?」


「わーい、いっぱい聞きたいな。明日も続きのお話をしてくれる?」


「もちろんよ。そうだ、よかったら、今度、字の読み方も教えてあげるわ」


「いいの!?」


「ルイは、私に畑のことを教えてくれるでしょう? だから、私は、そのお返しに字を教えてあげるわ!」


「わーい!!」


 イブール王国の識字率は、3割くらい。貴族たちと裕福な平民層くらいしか勉強することができないのよね……


 隣国の大国たちの識字率を考えると、本当にゆゆしき問題よね。


 だけど、平民階級に勉強させないのは、貴族の搾取さくしゅのためでもある。下手に知識を持たせると、支配下に収まらなくなるんじゃないかという恐怖もあるというわ。


 知識がない人たちの方が、理不尽りふじんな目にあっても、それが理不尽かどうかも、わからないのよね。それに、どうやって抵抗していいのかもわからない。


 横暴な貴族の話は、王都ではよく聞くのよ。

 その話を聞くだけで気持ちが重くなるわ。


 ここの領主のアレン様は公平な方だからそんなことはないと思うけど……


「大変だー、ナジン様が来たぞー!」

 男の人の大声が聞こえた。

 ナジン様? アレン様の代官かしら?


 ※


「皆の者、ご苦労。この度は、王都での国王陛下即位30周年記念式典において、私が特産品を献上することになった。よって、この村の特産品でもある絹を臨時的に税を徴収することになった。1か月後までに、いつもの2倍の絹を私に献上するように!!」


 私たちが村の広場に行くと、ナジンという人がエラそうな態度で、臨時増税の説明をしていたわ。


 おかしいわ。この前、アレン様が来た時に何も言っていなかったもの……


「どうして、突然?」

「いくらなんでも、1か月でこんなに絹を用意することなんてできねぇよ」

「でも、陛下に対する献上品なんだろ? 拒否したら、不敬罪で処刑されちまう」


 村の人たちも動揺しながら悲鳴のような声になっていたわ。


「ねぇ、ルイちゃん? ナジン様って、どんな人なの?」


「えーっとね、アレン様の代わりに税を集める人だよ?」


「そうなんだ。ありがとうね」


 それにしても、変だわ。アレン様が忙しくて、代理の者を立てるのはよくあることだけど……


 この時期に税の徴収?

 それも、国王陛下の即位記念?


 だって、国王陛下の即位は王国歴700年のはず……

 30周年ではなく、20周年よね?


 それももうすぐ、先代の陛下の命日のはず。そんな時期に記念式典の準備?


 つじつまが合わなすぎるわ。


「申し訳ございません。ナジン様。その徴収許可証を見せていただくことはできませんか?」


 私は思わず声を上げてしまった。


「なんだ、お前は? お前のような平民が、この徴収許可証を読むことができるわけがないだろう。ばかな奴め。まあ、いいだろう。読め、読むことができるならばな!」


 ひどい言い方ね。

 でも、私だって、元貴族の娘。

 徴収許可証くらいは簡単に読むことができるわよ。


「……」


 私は黙読する。

 これはひどいわ。財務大臣のサインも似せてあるけど、微妙びみょうに間違っている。


 さらに、徴収許可の場所もマルト村じゃなくて、近くの男爵領の地名が書かれているもの。


 まったくの偽造文章よ。みんな文字が読めないからって、それっぽい文章を作って、詐欺さぎを働こうとしているのね。


 この人たちの言うことのどこまで本当なのかしら。アレン様の代官というのも怪しいし……


 護衛の兵士らしき3人の男は、槍や剣で武装しているから、抵抗したら村の人たちを襲いかねないわね。なら、ここはあえて文字を読めないように演技して、あとで別の方法で対処した方がいいわ。


「ありがとうございます! 本物ですね。赤い印もあるし!」

 できる限り無垢な女をよそおうわ。怪しまれないように……


「ハンコで判断しているのか! まったく、文字も読めないくせに、見栄みえを張りおって。まぁ、いいわ。では、絹を用意しておけよ! 以上だ」


 怪しい男は勝ち誇ったような顔で太った体を揺らす。

 私は、落ち込んだように見せるために、顔を下げたわ。


 これで私が本当に文字を読めるとは思っていないはず。

 まだ、1か月もあるから、みんなで協力して、なんとか悪党を退治しなくちゃね!


 おぼえていなさい、詐欺師集団!!


 私は、決意を固めた。


 ※


「あの女やっぱり文字なんて読めませんでしたね! ちょっとヒヤヒヤしましたよ~」

「ああ、あんなちんけな村に、文字を読めるインテリがいるわけがねえよ」

「これで美味しい蜜をまた吸えますね」

「そうだな。あの領土は、領主が騎士団の重役だから、めったに戻ってこないし、こっちで不正し放題だぜ!」

「これだから、バカな平民をいじめるのはたまらねぇぜ!」

「ちょろまかした絹は、王子様にワイロですか? まったく、ご主人様も悪い人ですね!」


「あまり褒めるなよ!! ハハハハ」

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